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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
薬食同源の謳われる韓国食文化において、
その象徴的存在ともいえる食材が高麗人蔘です。
高麗人蔘は、韓国語では漢字語「人蔘」を音読してインサム(
)といい、
かつてはシム(
)という古語も存在しました。
中国の遼東半島〜朝鮮半島が原産地であり、「人蔘」の中国語音が学名Panax ginsengや英語名ginsengの語源となっています。
現代の日本語では、「にんじん」というとほぼセリ科のニンジン=carrotを意味しますが、元来「にんじん」といえば古くから日本にもたらされていた高麗人蔘を指すものでした。しかし、江戸時代に舶来したcarrotが、形態や薬効の類似性からセリニンジンと呼ばれるようになり、それが普及していつしかニンジンといえばこちらを指すようになったと言われます。
一方の高麗人蔘は「おたねにんじん」「朝鮮人蔘」「薬用人蔘」などとも呼ばれ、ウコギ科の多年生植物というまったくの別品種です。
■ 高麗人蔘の優れた薬効
高麗人蔘は心身の健康を増進させる優れた滋養強壮食品として、韓国では古くから人々の大きな信用・期待・評価を得ており、老若男女を問わず日常的に摂取することが励行されています。
注目される薬効成分の筆頭は、サポニンの一種ジンセノサイド(ギンセノシド)という活性体で、抗癌作用、集中力・記憶力向上、免疫機能活性化、精神安定作用、老化抑止、疲労回復などの優れた効果が科学的にも認められています。
高麗人蔘は土から掘り出すと保存性が悪いため、次のような加工保存法が発達しました。
ひとつは、よく洗った後、皮を剥いて天日干しする方法で、
こうしてできたものを白蔘(ペクサム:
)といいます。
もうひとつは、蒸気で蒸してから天日干しする方法で、こちらは紅蔘(ホンサム:
)といいます。
白蔘は保存性がよく比較的安価であること、紅蔘は加工工程で生じる薬効成分も含めて健康増進効果が非常に高い点が特長です。
また、蒸して天日干しする工程を9回繰り返したものを特に黒蔘(フクサム:
)といい、紅蔘よりもさらに薬効効果が高く、高麗人蔘の最高級品とされます。
一方、収穫後に洗っただけのものは水蔘(スサム:
)といい、
新鮮でみずみずしく繊維も柔らかいため、生食したり、煎じ汁を飲んだり、
蔘鶏湯(サムゲタン:
)などの料理に入れることもあります。傷みやすく保存がきかないという難しさがあります。
また高麗人蔘は、そのものを調理して飲食する以外に、工業的に薬効成分を抽出したドリンク剤や濃縮顆粒、錠剤カプセル、タブレットなど多様なサプリメント商品が販売され、親孝行の贈り物の人気商品となっています。
■ 高麗人蔘を使った料理
韓国料理の食材としては、生の高麗人蔘すなわち水蔘(スサム)
が使われることが多く、その場合は料理名も「スサム〇〇〇〇」となることがあります。
また、高麗人蔘は高価な食材だけに、ミサム(
:尾蔘)
と呼ばれるひげ根の部分だけを集めて販売されており、料理にもよく使われます。
・インサム ムッチム(
)高麗人蔘の薬味和え
生の高麗人蔘すなわち水蔘(スサム)を拍子木切りや薄切りにし、
コチュジャン、粉唐辛子、醤油、砂糖、水飴、ごま油、酢、すりごま、おろしにんにくなどを混ぜ合わせたヤンニョムジャンで和えます。
ひげ根だけを和えたミサム ムッチム(
)は、味がよく絡んで独特の味わいがあります。
・インサム ヤンニョムクイ(
)高麗人蔘の薬味焼き
水蔘を薄切りにして軽く叩き、フライパンにごま油をひいて下焼きした後、コチュジャン、粉唐辛子、醤油、砂糖、水飴、おろしにんにくなどを混ぜ合わせたヤンニョムを塗って両面焼き上げます。
コチュジャ
ン焼き(コチュジャンクイ:
)とも呼ばれます。
・インサム チャンアチ(
)高麗人蔘の漬物
水蔘を丸ごと、あるいは薄切りにして漬けたり、ひげ根を漬けたりします。
コチュジャン、醤油、粉唐辛子、おろしにんにく、水飴などを混ぜ合わせたヤンニョムで和えて密閉容器に詰める「唐辛子味噌漬け」(コチュジャン チャンアチ:
)タイプと、
下ごしらえした水蔘を容器に詰めてから酢醤油を注いで漬ける「醤油漬け」(カンジャン チャンアチ:
)のタイプがあります。
食べるときには、少量取り出してごま油やごま、オリゴ糖などを加えて和え直すこともあります。
・インサム チョングァ(
)高麗人蔘の甘露煮
ひげ根をとった高麗人蔘を丸ごと、あるいは薄切りにして、水、砂糖、水飴、蜂蜜などでコトコトと水分がなくなるまで照りよく煮詰めた後、表面を乾燥させます。高級なお茶受け・酒の肴にされます。
・インサムジュ(
):高麗人蔘酒
高麗人蔘をブラシで擦りながらよく水洗いして乾かした後、保存瓶に入れて25〜35度の焼酎を注ぎ、長期保存します。好みで砂糖、蜂蜜などを加えます。アルコール度数の高い酒を使うことにより、薬効成分がよく抽出されます。
・インサムチャ(
):高麗人蔘茶
よく洗った高麗人蔘を薄切りにし、
水とともにやかんに入れて火にかけ、弱火で1時間ほど煎じた後、砂糖や蜂蜜で甘みをつけて仕上げます。もう一つの方法は、薄切りにした高麗人蔘を蜂蜜とともに瓶に入れて仕込み、
飲むときに具と蜂蜜をスプーンですくって茶器に入れ熱湯を注ぎます。
どちらの場合も、生姜(センガン:
)や棗(テチュ:
)を一緒に加えて仕込むことがあり、
その場合はセンガン テチュ インサムチャ(
)などと呼ばれることがあります。
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