HOMEへ
韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
朝鮮半島の特に中〜南部地方で古くからなじみ深い魚に、
イシモチがあります。イシモチは韓国語でチョギ(
:助気)と言い、
日本では近似種や地方によってニベ、グチなどとも呼ばれています。イシモチ(石持)という名は頭部に大きな耳石があることに由来します。
イシモチ、特に朝鮮半島近海で獲れるファンチョギ(
>)と呼ばれる黄ニベは、淡白かつ旨味深い美味な白身魚です。鮮度の低下が早いため、
韓国では主に塩干物にして保存食品として重宝され、焼き魚や煮魚、チゲとなって庶民の食卓を支え続けてきました。
紐で連々と縛って吊るされたイシモチの束は、久しく韓国の市場を賑わせてきた原風景のひとつと言えましょう。
このイシモチの干物にはクルビ(
)という、
より情感あふれる別名があります。クルビ(屈非)という言葉は、高麗時代の政治家・李資謙[イジャギョム]が権力抗争に敗れて流配された先の全羅南道
[チョルラナンド](
)霊光[ヨングァン](
)で、地産の美味しいイシモチを食べて王に献上する際、
「自分は卑屈ではない」という意を込めて「屈非[クルビ]」と書き記したことが語源になっていると言われます。
クルビは長い間、安価な庶民の食べものでしたが、乱獲による漁獲量減少で近年は高級魚となりつつあります。特に、前述のチャムチョギを干したクルビは、味・栄養・見た目ともに優れた高級食材として、旧正月(ソルラル:
)や秋夕(チュソッ:
)の贈り物の人気商品となっています。その中でも最高級品とされるのが、霊光で獲れたヨングァン クルビ(
)です。今やクルビの街となった霊光の法聖浦[ポプソンポ](
)には、イシモチのオブジェが立ち並ぶ「クルビ通り」(クルビコリ:
)があり、イシモチ料理屋や干物屋が軒を連ねています。
■ イシモチを使った韓国料理
イシモチを表す「チョギ」と「クルビ」の呼称は、定義やニュアンスの違いはあっても実生活では入り混じって使われており、料理名としては「チョギ」と表記されることが多いようです。
また、イシモチは塩干物あるいはその冷凍品として出回っているものが主流で、調理に先立ち水や米のとぎ汁に浸けてもどしたり、解凍、うろこや内臓を取るという下処理が必要です。
そして、イシモチ自体に塩気が残っているため、
調理の塩加減は控えめにします。それでもイシモチ料理は一般に「パプトドゥッ」(
:ご飯泥棒)と称されるように、塩気の強い傾向があります。
・イシモチの焼きもの(チョギ クイ:
)
下処理したイシモチを、ガスや炭、魚焼き器などで両面じっくり焼きます。家庭では、表面に小麦粉をまぶして、油をひいたフライパンで焼くこともあります。
・イシモチの甘辛煮(チョギ チョリム:
)
厚めに切った大根を浅めの鍋に敷き詰め、イシモチを並べて、酒、醤油、砂糖、粉唐辛子、コチュジャン、おろしにんにくなどを混ぜ合わせたヤンニョムと少量の水を加えて煮つけます。
・イシモチの蒸しもの(チョギチム:
)
イシモチの皮に包丁目を入れ、器に並べて酒、ごま油、醤油、粉唐辛子、おろしにんにくなどを混ぜたタレをかけて器ごと蒸し上げます。蒸し上がったら、再度タレを回しかけて白髪葱や糸唐辛子、錦糸卵などをあしらいます。
・イシモチ鍋(チョギチゲ:
)
厚めに切った大根やじゃがいもを鍋に敷き、イシモチを並べて、醤油、酒、粉唐辛子、おろしにんにく、おろし生姜、生の唐辛子、魚醤などを混ぜたヤンニョムと少量の水を加えて煮ていきます。野菜や魚に火が通って味がしみたら、切った玉葱や長葱、春菊などを加え、煮汁をかけながら仕上げます。
最新のバックナンバーはこちらからもご覧いただけます。
イシモチ(チョギ)
鴨(オリ)
エイ(ホンオ)
ずいき
コプチャン
エホバッ
みずだこ
2006年から掲載しているキーワードバックナンバー一覧が見れます。
TOPへ