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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
韓国料理の中でも、
かなりクセの強い食べ物として一定層の人気を維持しているものに、
エイがあります。エイは朝鮮半島周辺のほぼ全海域で獲れる魚で、ホンオ(
:洪魚)と呼ばれるガンギエイと、
カオリ(
)と呼ばれるアカエイがよく食べられています。
両者は別種ですが、地方により時代により呼称が入り乱れており、「ホンオ」がエイの総称として呼び習わされている一面があります。
エイは体内組織の尿素含有量が多く、鮮度の低下とともに強烈なアンモニア臭を発するため、一般的な調理には向かず敬遠されがちな食材です。一方で、エイは熟成発酵はしても腐敗はしにくいとう特性を持ち合わせており、塩干物以外にも鮮魚として、産地から離れた内陸地域で食すことのできる貴重な食材でもありました。そんな好悪の分かれるクセの強い食材ですが、地方によってその特性を生かした独特な調理法が発達し、特に「南道[ナムド])」と呼ばれる全羅道[チョルラド]地方では郷土料理として人々に愛されてきました。
■ エイの発酵
エイは新鮮なうちは臭いもなく身が硬めですが、発酵が進むにつれて身が軟らかくなり臭いが強くなります。
好き嫌いが分かれるものの、韓国では新鮮なエイに負けず劣らず発酵したエイも味わい深いものであると、一定層に歓迎されています。エイをぶつ切りにして藁やおがくずとともに壺に入れ常温で数日放置する、というのがエイの伝統的な発酵方法です。こうすると、水分がほどよく抜けて熟成し旨味が増してくると言われます。
全羅南道の黒山島[フクサンド]は韓国随一のエイの名産地ですが、
「エイの町」としてはむしろ海から栄山江[ヨンサンガン]を数十キロ遡った
羅州[ナジュ]・栄山浦[ヨンサンポ]が有名です。栄山浦には、エイ料理店やエイ加工所、卸売店の密集した「エイ通り」(ホンオコリ:
)が新たな名所となっています。
古くから水運の発達した栄山江は、港町・木浦[モッポ]から積み下ろされた多くの物資を流域の町へと運んできましたが、栄山浦の「エイ通り」もそんな歴史を物語る一幕となっています。
■ エイの料理
・ホンオフェ(
:洪魚膾)
エイの刺身。
新鮮なエイも発酵したエイも生で刺身として食されます。
一口大の切り身に、コチュジャン、酢、おろしにんにく、おろし生姜、砂糖、すりごまなどを混ぜ合わせたチョコチュジャン(唐辛子酢味噌:
)をたっぷりつけ、
サンチュなどの葉野菜に包んで食べます。全羅道では冠婚葬祭に欠かせない高級料理とされています。
・ホンオ ムッチム(
)
エイ刺の薬味和え。
細く切ったエイの刺身を、
細切りのきゅうり、大根、玉葱、芹、梨などとともにチョコチュジャンで和えたもの。ホンオフェの一形態であり、ホンオフェ ムッチム(
)とも呼ばれます。
・ホンオエ(
)
エイの肝(内臓)。
エイの肝はアンコウ、カワハギの肝と並ぶ絶品とされ、「海のフォアグラ」とも称されます。ごま油と塩を混ぜたキルムジャン(
)やチョコチュジャンをつけて、刺身として生食されます。
・ホンオ サマッ(
:洪魚三合)
エイの刺身・茹で豚・白菜キムチの3点をサンチュに包んで食べる全羅道[チョルラド]の郷土料理。
エイもキムチもよく発酵したものを使うため、突き刺すようなアンモニア臭に涙や鼻水が出て、ビリビリと舌がしびれるほどです。
・ホンオチム(
)
エイの蒸しもの。
大きめに切って包丁目を入れたエイを蒸し器で蒸し、茹でた芹や豆もやし、葱などをのせ、醤油に粉唐辛子、おろしにんにく、しょうが汁、いりごま、みじん葱などを混ぜ合わせたヤンニョムカンジャン(薬味時醤油)をかけていただきます。
・フェネンミョン(膾冷麺:
)
刺身を甘酸っぱ辛いヤンニョムで和えて上にのせた冷麺。
麺と具をヤンニョムで混ぜて食べる「ピビム冷麺」の一種。
朝鮮半島北部の港町、咸興[ハムフン](
)の郷土料理で、新鮮なエイの刺身を使ったものが名物です。
■ ホンタッ(
)
エイ料理は、
マッコルリ(
:韓国式どぶろく)や焼酎などのお酒とともに食されることがほとんどで、特にマッコルリとの相性が抜群と言われます。
ホンオ(エイ)のホンと、
マッコルリの別名タッチュ(
:濁酒)のタッをワンセットにした「ホンタッ」(
:洪濁)という愛称がメニュー名として定着し、
それを提供するお店は「ホンタッチプ」(
:洪濁家)と呼ばれています。
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