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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
韓国でたこ(蛸)といえば、朝鮮半島沿岸のほぼ全域で獲れるナッチ
(
:手長だこ)、そして北寄りの海域で獲れるムノ(
:水だこ)が一般的です。ちなみに日本でポピュラーな真だこは、朝鮮半島では南海岸で獲れる、
いわば済州島の特産物で、チャンムノ(
:真だこ)、トルムノ(
:石だこ)、
ウェムノ(
:倭だこ)などと呼ばれています。日本語の「たこ」は、ほぼ「ムノ」と訳すことができます。
朝鮮半島におけるたこの歴史は古く、
文献上では15世紀前半の歴史書『世宗実録』や、15世紀中ごろの地理書『東國輿地勝覧』にその名が出てきます。また19世紀初めの海洋生物学書『玆山魚譜』には、
「原名がチャンオ (
:章魚)、
俗名がムノ (
:文魚)」と記されており、墨袋の墨から文字が連想されてムノ(文魚)という名に至ったという説があります。
保存・流通が不便だった時代、たこはその産地で食べられる以外は主に乾物にされ、冠婚葬祭の供物や宮中への献上物として重宝されてきました。
また、たこは古くから朝鮮半島で生薬とされるほど栄養価の優れた食品でした。現在では、不飽和脂肪酸の一種DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)、アミノ酸の一種タウリンなどの有効成分多く含む高タンパク・低脂肪の高機能食品として、記憶力向上、認知症予防、中性脂肪抑制、悪玉コレステロール抑制、疲労回復、免疫力増進、活性酸素除去、老化抑制、血管病予防など、多くの優れたはたらきが挙げられています。
■
ムノフェ:たこの刺身
たこ料理の筆頭は、なんといってもフェ(
:刺身)で、たこの刺身はムノフェ(
)と言います。
フェには生の刺身「センフェ」(
:生膾)と、茹でるなど火を通した刺身「スッケ」
(
:熟膾)がありますが、たこの場合、よほど活きのよいもの以外はスッケで食べられます。
@
:たこは胴体に切り込みを入れて内臓を取り除き、胴体の中を洗った後、ボールに入れる。塩を一つかみ手に取り、足一本一本しごくようにして表面のぬめりをとる。細かい泡が立ってきたら水を流しながらさらに表面をよくしごき、ぬめりを完全にとる。
A
:@の胴体から目と口を取り除き、胴体を切り離す。たこが大きい場合は、足を4本ずつに切り離してもよい。
B
:大きめの鍋に湯を沸かして塩を加え、Aの足先を持って太い方から入れていく。全体が浸ったら1分ほど茹でてザルに上げる。
C
:コチュジャン(唐辛子味噌)
に酢、味噌、おろしにんにく、砂糖、すりごま、刻み葱などを混ぜ合わせてチョコチュジャン(
:唐辛子酢味噌)を作る。
あるいは、ごま油に塩、おろしにんにく、刻み葱、刻み青唐辛子などを加えてキルムジャン(
:塩ごま油)を作る。
D
:Bのたこの足を一本ずつ切り離して斜め薄切りにし、器に美しく盛りつける。好みでCのチョコチュジャンやキルムジャンを添える。
※シンプルな料理だけに、たこを柔らかく茹で上げるところがポイントになります。茹ですぎは禁物です。また、大根に含まれる酵素プロアテーゼがタンパク質を分解して柔らかくするはたらきを持つことから、たこを大根おろしにしばらく浸けてから茹でるという方法もあります。
■
その他のたこ料理
・ムノチョリム(
):たこの甘辛煮。
醤油、酒、砂糖、粉唐辛子、おろしにんにく、胡椒、水少々を煮立たせて、一口大に切ったたこを入れて汁気がなくなるまで煮上げます。味つけにコチュジャンやオリゴ糖、水飴、オイスターソースなどを入れたり、粒にんにくや、生の唐辛子(青・赤)、玉葱、長葱などの副材料を入れることもあります。最初にごま油で薬味を炒めてから煮ることもあり、その場合はムノポックム(
:たこ炒め)と呼ぶこともあります。お惣菜として、あるいは酒の肴として食べられるほか、ご飯にのせてトッパプ(
:丼)にされることもあります。
・ムノチュッ(
):たこ粥。
ごま油で炒めた米に、たこの茹で汁を注いで粥を焚き上げ、刻んだたこをのせて仕上げます。刻んだたこを米と一緒に炒めて粥を炊き上げたり、最後にのせるたこを薬味で味つけしておくなどの方法もあります。海女たちの補養食として作られるようになった料理といわれます。
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