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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
韓国料理の味つけの基本は
(ジャン/チャン)であると言われます。
は漢字で「醤」と書き、味噌(
:テンジャン)、醤油(
:カンジャン)、唐辛子味噌(
:コチュジャン)など、大豆や穀類に麹と塩を加えて発酵させた、韓国料理の基本的な調味料をさします。韓国語の音韻体系上、子音
は語頭ではch、
語中では濁音化してjと発音するため、
は語頭ではチャン(chang)、語中ではジャン(jang)と発音されます。
朝鮮半島の古文献でこれらのジャン類が言及されているものでは、
683年の王妃の納采品として醤類・酒・塩辛が登場する、高麗時代の歴史書『三国史記 新羅本紀』(1145年)が最古と言われます。また、ジャン類の作り方については、李氏朝鮮王朝時代の『救荒撮要』(1554年)をはじめ、多くの文献で言及されています。
茹でてつぶした大豆を固めて縄で吊るし乾燥させ、できた豆麹「メジュ」(
)を塩水とともに甕に入れて発酵させる、というのが伝統的なジャン類の作り方です。甕の中の液体がカンジャン(醤油)、
残った固形物がテンジャン(味噌)になるため、伝統的な製法では味噌と醤油が同一線上にあることがわかります。
朝鮮半島では長い間、この伝統的な方法で家ごとにジャン類が手作りされてきましたが、20世紀前半に日本人が醤油味噌製造所を各地に作ったことで日本式の製造法がもたらされ、その後日本敗戦による撤退と朝鮮戦争の混乱期を経て、韓国で近代化の進む1970〜80年代にかけてジャン類製造工場が増えていきました。同時に、韓国近代化による住宅事情や食生活の変化に伴い、ジャン類を家で作ることが激減し、1980〜90年代にかけて韓国内のジャン類のシェアは工場製品が自家製品にすっかり取って代わりました。
味の基本となるジャン類が家ごとの手作り品から画一的な既製品に代わっていったこと、それが韓国食文化に与えた影響は大きかったと後に言われるようになりました。しかし、形もなく人の記憶によってのみ伝わる「味」というものについて、その変化をとらえて客観的に語ることは容易ではありません。
■
ご飯の友、サムジャン
前述のとおり、ジャン類の基本は醤油、味噌、コチュジャンですが、韓国料理ではそれらをベースに、用途に合わせてさまざまな薬味・香辛料を配合してタレを作るところに特徴があります。タレや合わせ調味料のこともまた、韓国語では「〜
」(ジャン)と言います。あるいは「〜
」(ヤンニョム)、「〜
」(ソス)と言うこともあります。たとえばプルコギのタレは、プルコギジャン(
)、プルコギヤンニョム(
)、プルコギソス(
)などと呼ばれます。
そんなタレや合わせ調味料の中でも、
食卓で日常的に目にするのがサムジャン(
)です。
サム(
)
は包む、包むこと、包んだものなどを意味するので、サムジャンは「包み味噌」「包みご飯のタレ」などと訳すことができます。
韓国では、
「包んで食べる」という食事スタイルが非常に多く見られます。サンチュやサニーレタス、えごまの葉、ミニ白菜、茹でたキャベツ、茹でたふきの葉、茹でたかぼちゃの葉、
わかめなどを手のひらに置き、ご飯とおかず、キムチなどをのせて包んで食べるスタイルです。これをサム(
:包みもの)あるいはサムパプ(
:
包みご飯)と言い、このとき一緒に包むものとして欠かせないのがサムジャンです。
サムジャンには様々なレシピがありますが、おおよそ味噌、コチュジャンをベースに、おろしにんにく、ごま油、すりごま、砂糖、醤油、みじん葱などを混ぜ合わせて作ります。また、好みで粉唐辛子、青唐辛子のみじん切り、玉葱のみじん切り、梅シロップ、オリゴ糖などを加えることもあります。
数ある韓国のタレ類・合わせ調味料の中で、サムジャンがいち早く市販品となって普及したことは、韓国の食において「包んで食べる」ことがいかに大きな存在であるかを物語っていると言えましょう。
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