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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
韓国の伝統的な麺料理に、冷麺(
:ネンミョン)があります。
冷麺は、蕎麦粉を中心にじゃがいも澱粉、さつまいも澱粉、小麦粉などを配合して生地をこね、圧力をかけて小穴から押し出した圧搾麺のひとつで、もともとは朝鮮半島の北部地方でよく食べられてきました。沸き立つ熱湯の中へ押し出された麺は、即座に茹でて冷水に晒すことで独特のコシが生まれ、それがこの料理の身上となっています。
現在、韓国の冷麺にはいろいろな種類がありますが、もともと地方によって麺や汁、具などに特徴があったものが、歴史的な変遷を経て現在につながっています。
■ 平壌
[ピョンヤン]
冷麺
冷麺といえば、何といっても平壌冷麺(ピョンヤン ネンミョン:
)が筆頭と言えましょう。蕎麦粉にじゃがいも澱粉を配合した細麺と、ユクス(
:肉や骨を煮出したスープ)とトンチミ(
:大根の水キムチ)の汁を合わせた爽やかな冷たいスープが特徴です。ユクスは、牛骨や牛肉、
あるいは鶏骨でとったものが正統派ですが、古くは雉でスープをとっていたことが文献に記されています。
また、トンチミとは大根を丸ごと塩水に長期間漬けたもので、冬場に漬ける代表的なムルギムチ(
:水キムチ)のひとつです。
よく発酵して酸味の出たトンチミの汁と、ユクスの旨みの絶妙なハーモニーが、
平壌冷麺の味の決め手となっています。
また、具には豚肉または牛肉を茹でて薄切りにしたピョニュッ(
:片肉)と、薄切り大根キムチ、梨の薄切り、茹で卵などが定番で、その他に松の実や糸唐辛子、芥子などをあしらいます。
冷たいスープのかかったこのタイプの冷麺は、ムルレンミョン(
)に分類されます。ムル(
)は水、汁、スープなどを意味し、ムルギムチのムルもこれと同じ言葉です。
平壌冷麺はその名のとおり、
現在では朝鮮民主主義人民共和国の首都となっている平壌地方でもともと食べられてきたものでしたが、
朝鮮戦争(1950〜1953)のときに戦火を逃れて北部から避難してきた人々によって韓国にもたらされ、
たちまち韓国内に広がりました。韓国の有名な冷麺専門店の多くは、失郷民(シリャンミン:
)と呼ばれる北部出身者によって営まれているようです。
■ 咸興
[ハムン]
冷麺
平壌冷麺と並び称される二大冷麺のもうひとつが、
咸興冷麺(ハムン ネンミョン:
)です。
咸興(ハムン:
)は朝鮮民主主義人民共和国の咸鏡南道(ハムギョンナムド:
)にある、東海に面した港町です。
咸興冷麺の特徴は、汁気がなく、ヤンニョムジャン(
)あるいはチョコチュジャン(
)などと呼ばれる甘辛い唐辛子酢味噌が麺の上にたっぷりのっていたり、あるいはそのヤンニョムジャンで和えた真っ赤な麺がこんもりと盛られているところです。
汁気がないことから、ムルレンミョンに対してピビムネンミョン(
)あるいはピビムククス(
)とも呼ばれます。ピビム(
)は混ぜることを意味します。
そして麺の上には、茹で卵や茹で肉、
きゅうり、梨などの具がのっており、麺とヤンニョムジャン、具を混ぜて混然一体となった複合の味を楽しみます。
あるいは、ヤンニョムジャンで和えた刺身類が具にのっていることもあり、
その場合は、刺身を意味するフェ(
)をつけてフェネンミョン(
)とも呼ばれます。
また、咸興冷麺のもう一つの特徴は、麺のコシがとても強いことです。このタイプの麺は、じゃがいもあるいはさつまいもの澱粉を主材料とし、やや太目で噛み切るのが困難なほど強いコシの麺に仕上がっています。
そして、咸興冷麺にはしばしば、温かいユクスが一緒に提供されます。汁気がなく、味のパンチがきいた咸興冷麺を食べる間々に、ユッスでのどを潤すというわけです。
ピビム麺
■ 晋州
[チンジュ]
冷麺
平壌冷麺、
咸興冷麺ほどではありませんが、慶尚南道(キョンサンナムド:
)晋州(チンジュ:
)にも、郷土料理として名物の冷麺があります。
晋州冷麺は、蕎麦粉メインの麺と、貝や煮干し、干鱈など海産物でとったスープが特徴です。
また、具には茹で卵のほかきゅうりや梨、
錦糸卵、キムチなどを細切りにしてたっぷりのせますが、具のひとつに肉のチョン(
:小麦粉と卵をつけて焼いたピカタ状の料理)の細切りをのせるのも、晋州冷麺ならではといえましょう。
晋州冷麺はムルレンミョンが主流ですが、ピビムネンミョンもあります。また、ムルレンミョンにヤンニョムジャンを加えて真っ赤な汁にすることもあります。
蕎麦粉冷麺
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