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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
「冷麺」といえば今や日本でも、爽やかな冷たい汁にコシの強い半透明の麺が入った、朝鮮半島発祥の料理を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
「冷麺」は韓国語で
(ネンミョン)といい、麺の原材料やスープの有無、具、味つけなどによってさまざまな種類があります。
■ 冷麺といえば、ムルレンミョン
冷麺は大きく二つの種類に分けられます。一つは、ムルレンミョン
(
)で、爽やかな汁がたっぷり入った、
冷麺のスタンダードタイプ。単に冷麺といえばこちらを指すのが一般的です。
ムルレンミョンのムル(
)
は水・汁を意味し、その終声
に連なる子音の音韻変化により「ネ」の発音が「レ」に変わります。
この冷麺は、
何といっても爽やかな冷たい汁とのどごしのよい細麺が身上です。汁は、牛や鶏を煮出したスープを冷やして、
大根を塩水に漬けて発酵させた水キムチの一種「トンチミ」(
)
の汁と合わせて、塩で味を調えるのが伝統的な製法ですが、
近年では冷麺専門店でもなければ
出来合いの濃縮スープを氷水で希釈して使うのが一般的なようです。
次に麺ですが、これももともとは蕎麦粉や小麦粉、じゃがいも澱粉などを配合し、少量の熱湯で固くこねた生地を製麺機に入れ、沸き立つ湯に押し出して茹で、冷水で締めるという工程が一般的でしたが、このような手打ち冷麺は韓国においても冷麺専門店以外ではすっかり姿を消し、製麺工場で作られた便利な袋入り生麺が主流になりました。また、そういったインスタント生麺も粉の配合や細さ、製法によって、できあがったときの麺の味や色、コシの強さ、舌触り、汁の絡み具合などにそれぞれの特徴が出ます。
また、ムルレンミョンの具としては、茹で肉の薄切り、茹で卵、トンチミ大根の薄切り、梨などが従来の定番でしたが、その他に刻んだきゅうり、キムチ、錦糸卵、りんご、すいかなどが使われています。
ムルレンミョンはもともと、朝鮮半島北西部・平壌(ピョンヤン:
)
随一の名物料理でしたが、朝鮮戦争(1950〜1953)
を経て北部からの避難民が韓国で次々と冷麺店を開き好評を得たことが、韓国で冷麺が普及するきっかけとなりました。
そのため、ムルレンミョンはしばしば平壌冷麺(ピョンヤン ネンミョン:
)と呼ばれています。
■ 二大冷麺のもう一つ、ピビム冷麺
そんなムルレンミョンと並び、
冷麺の双璧をなしているもう一つが、ピビムネンミョン(
)です。ピビムネンミョンのピビム(
)
は混ぜることを意味します。ピビムミョン(
)と言うこともあります。
ピビムネンミョンの特徴は、汁がないことと、真っ赤なヤンニョムジャン(
:薬味ソース)を麺・具と混ぜて混然一体となったものを食べるところです。
またピビムネンミョンの麺は、さつまいも澱粉やじゃがいも澱粉を配合した、
褐色で太くコシが強いものが多いことも特徴です。
ピビムネンミョンの味の決め手となるヤンニョムジャンは、コチュジャン(唐辛子味噌)をベースに粉唐辛子、酢、しょうゆ、砂糖、おろしにんにく、ごま、みじん葱、ごま油などを混ぜ合わせて作ります。ヤンニョムジャンの配合には店や家によって工夫とこだわりがあり、梅シロップやサイダー、オリゴ糖、水飴、魚醤、芥子などを加えて独特な風味やマイルドさ、照りを出したり、梨や玉葱のすりおろしを加えるなど、レシピもさまざまです。
ムルレンミョンの別名が「平壌冷麺」であったように、
ピビムネンミョンも朝鮮半島北東部・咸興(
:ハムン)の名物料理であったことから、別名「咸興冷麺」(ハムン ネンミョン
:ハムン ネンミョン)と呼ばれています。
■ ネンミョン≒ムルレンミョン
韓国語の
(ネンミョン)も日本語の「冷麺」も、
一般的にまずイメージされるのはムルレンミョンであることから、韓国・日本で時期の差はあってもムルレンミョンが他の冷麺と比べると早くから普及し、
人々の人気を得ていたことが想像されます。
逆にいうと、あえて「ムルレンミョン」という語を口にする場面としては、冷麺店で複数のメニューの中からムルレンミョンを指定する場合や、ピビムネンミョンではなくムルレンミョンを特定する場合など、場面が限られていることがわかります。
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