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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
日本で「もやし」といえば、緑豆(グリーンマッペ)を発芽させたものか小粒黒豆(ブラックマッペ)を発芽させたものが主流ですが、それに加えて近年、需要・供給とも増加しつつあるものに「大豆もやし」があります。
「大豆もやし」はその名のとおり大豆を発芽させたもので、「豆もやし」とも言います。小粒大豆から作られたものは「子大豆もやし」と呼ばれることもあります。日本ではもともと東北の一部地方を除いて大豆もやしを食べる習慣がなかったため、かつてはほとんど目にすることがありませんでしたが、朝鮮半島では古くから大豆もやしが多用されており、日本国内でも近年の韓国料理ブーム到来よりはるか前から、在日韓国・朝鮮人集住地域の食材店で、自家栽培の大豆もやしが販売されていました。
現在では、韓国料理ブームに加えて健康志向からくるスプラウトブーム、さらに天候や情勢に左右されず低価格で安定供給できるよさもあって、日本各地の多くの食品スーパーで、もやしコーナーに大豆もやしがレギュラー商品として並ぶようになりました。
■ 庶民のスーパーフード、大豆もやし
大豆もやしの特長は、上述のとおり高い機能性とコスパの良さが挙げられます。
まず、スプラウトに共通する特長ですが、発芽時に生じる高濃度のビタミン・ミネラルと解毒力・抗がん作用などの優れた機能があります。これらの機能性成分は豆(種子)のときには存在しない、あるいは含有量が少なかったものが、発芽の過程で発生・増加すると同時に体内で吸収されやすい状態に変化することが知られています。また、成長後の野菜と比べて小さな植物体に凝縮された状態で含まれるため、少量の摂取で相対的に高い機能を得られることになります。
次に、大豆もやし特有の高機能成分を見てみましょう。大豆もやしには豊富な食物繊維とビタミンB2・Cをはじめサポニン、大豆イソフラボン、大豆レシチン、アスパラギン酸など、肥満や動脈硬化、高血圧、糖尿病などの生活習慣病を抑え抗がん効果の認められる成分が多く含まれています。それに加えて近年では、ストレスと疲労の軽減作用のあるGABA(ガンマーアミノ酸) も注目され、機能性食品として評価が定まりつつあります。
さらに大豆もやしは、栽培が簡易かつ短期間で気候に左右されないことが、大きなアドバンテージとなっています。一般の植物と比べて栽培に要する日光量が極めて少ないスプラウト類の中でも、とりわけ大豆もやしを含む「もやし」類は光をまったく必要としないのが特徴です。大豆もやしの栽培に必要な条件は温度(10〜25℃)と水のみで、狭い空間でも容易に栽培できます。つまり、日射量の少ない寒冷地や耕作不能な荒地でも暖房を活用して年中屋内栽培でき、一週間ほどで収穫できるという栽培性の良さは、そのまま低コストにつながっています。
■ コンナムル(
)という韓国語
大豆もやしは、韓国語で「コンナムル」(
)
と言います。コン(
)は豆・大豆、ナムル(
)は野菜類を意味します。
ちなみに、緑豆やブラックマッペのもやしは「スッチュナムル」(
)と言います。
ここで紛らわしいのは、「ナムル」(
)
という韓国語です。「ナムル」とは上述のように野菜類、
すなわち食べられる野菜・野草・山菜などをさすと同時に、それらを料理した「和え物」をさすこともあります。つまり、「コンナムル」と言ったときに、
それが大豆もやしをさすのか、「大豆もやしの和え物」をさすのか、
状況によってはわからない場合があります。
ただし、
「大豆もやしの和え物」の場合はしばしば「和え物」を意味する「ムッチム」
(
)をつけて、「コンナムル ムッチム」(
)とも呼ばれることがあります。
■ コンナムル料理
文頭でも述べましたが、大豆もやしは韓国料理において非常にポピュラーな食材だけに、さまざまな料理に登場します。大豆もやしを主材料とする料理には、和え物のほかに次のようなものがあります。
・コンナムルクッ(
):大豆もやしのスープ
大豆もやしの機能性が謳われる以前から、韓国では二日酔いに効くスープとして国民に愛されてきました。煮干しや昆布でダシをとり、大豆もやしをメインに葱、おろしにんにく、唐辛子などを加え、塩・醤油ベースで透明に仕上げたさっぱり味のスープです。干し鱈やあさり、アミの塩辛を入れたり、青や赤の生唐辛子をあしらうこともあります。大豆もやしは茹で汁に独特な旨味と栄養分が溶け出るため、和え物用などに大豆もやしを茹でたときも茹で汁は捨てずに使います。
・コンナムルクッパプ(
):大豆もやしのスープかけご飯
上述のスープをご飯にかけたものですが、
生卵や刻んだキムチ、魚介類、海苔の和え物を加えて、トゥッペギ(
)と呼ばれる土鍋で一人前ずつ仕上げるなど、一品料理として食べ出のあるものです。
特に、全羅北道[チョルラプット]・全州[チョンジュ]のコンナムルクッパプは、
丸々とした新鮮な大豆もやしと貝類を取り合わせた豪華な郷土料理として知られています。
コンナムルクッ同様、二日酔いに効く料理と認識されています。
・コンナムルポックム(
):大豆もやし炒め
大豆もやしをごま油で炒め、
醤油、酒、おろしにんにく、胡椒などで炒め煮にしたもの。
玉葱やにんじんの細切りを一緒に炒めたり、仕上げに青葱や生唐辛子を加えることもあります。また、てながだこ(
:ナッチ)やいか(
:オジンオ)、いいだこ(
:チュクミ
)などの魚介類とともにコチュジャンをきかせて激辛の炒め煮にすることもあります。
・コンナムルパプ(
):大豆もやしご飯
コンナムル ピビムパプ(
:大豆もやしの混ぜご飯)とも呼ばれます。大豆もやしを茹でてその茹で汁でご飯を炊き、
よそい合わせる方法と、釜に大豆もやしと浸水した米を入れ、
水を注いで炊き上げる方法とがあります。どちらの場合も、刻んだ葱やにんにく、
唐辛子、すりごま、醤油、ごま油などを混ぜ合わせたヤンニョムジャン(薬味だれ)をかけ、混ぜていただきます。
大豆もやし以外に、下味をつけた牛肉や豚肉、きのこや葱を加えることもあります。
このほか、大豆もやしは副材料としても、スープや鍋、炒め物、蒸し煮などさまざまな韓国料理に広く使われています。
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