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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
韓国には「ミョンジョル」(
:名節)と呼ばれる、旧暦に則った古くからの年中行事がいくつかあり、その中でも旧暦8月15日のチュソッ(
:秋夕)は、正月と並ぶ二大ミョンジョルです。旧暦8月15日は、日本では十五夜(仲秋の名月)の日にあたります。
韓国では古くから、チュソッに親族そろって先祖の墓参りをし、その年の収穫物でこしらえた供物を祭壇に並べて祭祀を挙げた後、皆で食膳を囲んでにぎやかに宴を催す風習があります。
人々の生活スタイルの変化に伴い、チュソッをはじめとするミョンジョルそのもののあり方も変わってきましたが、現在でも韓国ではチュソッをはさんだ3日間が休日となっており、都会に暮らす若い家族も帰省して本家に集まり、一族そろってにぎやかに過ごすことがまだまだ多いようです。今年(2020年)は、10月1日がチュソッとなっています。
■ チュソッのソンピョン
ミョンジョルにはそれぞれ、チョルシッ(
:節食)と呼ばれる、その時節に決まった食べもの・飲みものが欠かせません。
最大のミョンジョルであるチュソッとなれば、準備する飲食物も多岐にわたり、本家の主婦はチュソッが近づくとたくさんの食材を買い込んで、祭祀の供物と宴のための大量の料理を仕込みます。
その中でも、チュソッの代表的な食べものにソンピョン(
)があります。ソンピョンは松葉を敷いた蒸籠で蒸し上げた餡入り餅のことで、
「松片」もしくは「松餅」という漢字が当てられます。その年に収穫したばかりの穀物を使ってソンピョンを作り、
祭壇にお供えし、豊穣を天に感謝することがしきたりになっています。
■ ソンピョンの作り方
ソンピョンの一般的な作り方は、次のとおりです。
@
餅生地をこねる
うるち米粉(もしくはうるち米粉+もち米粉)に塩少々を加え、熱湯を少しずつ注いでざっと混ぜてから手で全体をよくこねた後、ひとまとめにして、濡れ布巾をかけてしばらく寝かせます。よもぎや紫芋などの副材料を色づけに加える場合は、あらかじめ米粉に副材料を混ぜてから熱湯でこねるようにします。加熱すると色が濃く出るので、この時点では薄く色づく程度に配合します。
A
餡を作る
<小豆餡>
小豆を柔らかく茹でてつぶし、弱火で水気を飛ばしながら砂糖と塩少々、シナモンを加えて混ぜます。
<大豆餡>
大豆を使って、小豆餡と同様の方法で作ります。
<ごま餡>
ごまを炒ってよくすり、蜂蜜と塩少々を加えて混ぜます。
<栗餡>
栗を茹でて中身をスプーンでかき出し、軽くつぶしながら蜂蜜、シナモンを加えます。または、栗の渋皮までむき、3〜4等分するだけでも使えます。
B
餅生地で餡を包む
@の生地を少量とって丸め、中央をお椀形にくぼませてAの餡を詰めた後、生地のふちを両側から寄せてくっつけ、ぴたりと口を塞ぎます。
ソンピョンを形よくきれいに作ることは意外に難しく、「ソンピョンがきれいに作れると美しい子が生まれる」という言い伝えがあります。
C
蒸す
蒸し器もしくは蒸籠に松葉を敷いてBの餅を並べ、その上にまた松葉をのせて餅を並べます。餅どうしがくっつかないように、餅と餅の間に松葉が入るようにし、強火で30分ほど蒸します。近年では松葉を使わず、蒸し器にぬれ布巾を敷いて蒸すこともあります。
D
仕上げ
蒸し上がったソンピョンを取り出し、水で松葉を洗い流した後、表面にごま油を薄く塗ります。
■ ソンピョンの種類
ソンピョンは地方や家により、形や生地、餡にヴァリエーションがあります。ソウル地方では小さな貝形に形作ることが多く、慶尚道地方では丸く中央がふくらんだ帽子形、江原道や黄海道では細長く握って指のあとをつけたもの、平安道では大ぶりな半月形など、地方による特徴があります。
餅生地は元来、水に浸したうるち米を粉に挽いてこねた白色のものと、そこにすりつぶした蓬[よもぎ]を加えた緑色のものが主流でしたが、近年では米粉に黒米や紫芋、かぼちゃ、抹茶、クチナシの浸し汁(黄色)、五味子の浸し汁(赤色)、ウチワサボテンの実(紅色)、山葡萄の汁(紫)を加えるなど、独特な天然色を出す工夫がされています。また、モチッとした食感を出すために、うるち米粉にもち米粉を混ぜることもあります。江原道地方には、じゃがいも澱粉やどんぐり粉を米粉に混ぜた独特な風味のソンピョンがあります。
中に入れる餡も、従来の小豆餡や大豆餡のほかに緑豆餡やごま餡、栗餡、そしてそれらに胡桃や松の実、なつめを加えるなど、多様性が見られるようになりました。
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