| 韓国式とんかつ、「トンカス」。  「とんかつ」は韓国語の音韻体系上、表記しにくい発音のため、「  」「  」「  」「  」  などさまざまなハングル表記が見られます。標準語では「  」(発音はトンガス)と定められていますが、実生活では「  」  トンカス)と記すのが一般的です。   | 
                                          
| トンカスは、軽洋食[キョンヤンシッ](  )   と呼ばれる、日本風洋食の代表料理で、長らく外食メニューとして多くの韓国人から愛されてきました。   | 
| 韓国式トンカスの特徴は、まず肉が薄くて面積が大きいこと。韓国ではトンカスを作るときに、肉叩きで豚肉をまんべんなく叩いて柔らかく大きくする工程が入ります。そしてもうひとつの特徴は、ソースがトンカス全体に浸るほどたっぷりかかっていること。ソースはデミグラスソースが基本で、それにケチャップやウスターソースを混ぜたり、こだわりの店ではハニーマスタードやホワイトソース、ペッパーソースなども見られます。 | 
  |  | 
|  | 
  |  | 
  | ■軽洋食トンカス 
 | 
| 上記のような特徴をもつトンカスは、「キョンヤンシッ(  :軽洋食)  トンカス」あるいは「ハンシッ(  :韓式)トンカス」とも呼ばれています。  | 
| 軽洋食(   )  という韓国語は、上述のとおり「日本風洋食」を意味し、その料理がもたらされた日本統治時代(1910〜1945)ごろから使われ始め、  言葉のイメージを時代とともに微妙に変化させながら現在に至ります。  | 
| 軽洋食は、韓国に洋食自体が稀少だった時代に、本格的な洋食とまではいかないが十分高級で、長らく人々の垂涎の的だった料理ジャンルでもあります。トンカツ、オムライス、ハンバーグといったライナップは、「昔の日本の洋食屋さんのメニュー」とも重なります。 | 
| 朝鮮半島における軽洋食の歴史を遡ると1925年、  当時の京城[キョンソン]駅完成と同時に駅舎内に開店したレストラン「グリル」が、  韓国最初の軽洋食レストランとされています。ただし、当時この「グリル」で出されていた料理は、  フルコースをはじめかなり本格的な洋食だったようです。  1945年に朝鮮半島が解放を迎えた後、「グリル」は大韓民国鉄道庁が運営を引き継ぎ、  次第に他の駅にも出店を広げていく一方で、似たような「軽洋食堂」が各地にできました。  食糧事情が厳しく外食できる飲食店の種類が少なかった1970〜80年代ごろまで、軽洋食堂は「チュングッチプ」(   :中華料理店)と並ぶ庶民のあこがれで、誕生日や卒業式など特別な日に家族で食べに行くようなお店だったようです。  | 
| 1990年代に入り、  外食産業の発展とともに軽洋食堂は次第に姿を消していきましたが、その料理はチェーン展開するファミリーレストランや粉食店  [プンシッチョム](   :軽食店)、フードコートのメニューとして引き継がれ、  かつては憧れの的だった高級な「軽洋食」が、安価で卑近なイメージへと変わっていきました。  | 
| そして、一時は廃れた軽洋食堂が、昨今のレトロブームにより懐古的な装いで再び出現しにぎわいを見せているのも、興味深いところです。 | 
| そんな近年の軽洋食堂や粉食店、フードコートで提供されているトンカスは、まさに薄くて大きくノーカットで、デミグラスソースがたっぷりかかったスタイル。付け合わせには、マヨネーズベースのドレッシングがかかった千切りキャベツやトマト、コーン、ポテトサラダ、ピクルス。そして、コーンスープと平皿のライスがセットになっているのも定番です。これらは、ナイフとフォーク、スプーンでいただきます。 | 
  |  | 
|  | 
  |  | 
  | ■日式[イルシッ]トンカス 
 | 
| さて、そんな軽洋食トンカスが広く愛されてきた一方で、  脈々と続くもうひとつのトンカス類型があります。イルシッ(   :日式、日食)トンカスと呼ばれる、日本式のとんかつです。  | 
| こちらは日本のとんかつそのままに、中の肉は分厚く、衣のパン粉はカリッと揚がり、縦に何等分かされた状態で皿に盛りつけられ、色の濃いソースが別添えされているのが特徴。添えものは千切りキャベツにパセリ程度のシンプルなものが多く、茶碗によそわれたご飯と味噌汁がセット。小皿の漬物は、定番の黄色いタクアンのほか、白菜や大根のキムチもしばしば登場します。 | 
| そしてこちらは箸のみ、あるいは箸とスプーンで食べるスタイルになっています。 | 
| 「日式トンカスvs軽洋食トンカス」という構図は韓国でしばしば話題になっており、好みが分かれるようです。日式派は、最後までカリッとした衣を楽しめる点や、ソースを自分の好みでつけられるところ、分厚い肉のうまみとジューシーさを魅力として挙げるようです。一方の軽洋食派は、ソースのしみこんだ衣が好きだったり、たっぷりのソースをご飯にかけて食べられる点、そして、日式に比べて価格が手ごろであることも理由となっているようです。また、韓国語で外食にお出かけすることを「カルチルハロガンダ」(  :直訳すると、ナイフ仕事をしに行く)と言うくらい、ナイフとフォークの洋食スタイルに対する好感度があることも挙げられましょう。 | 
  |  | 
|  | 
  |  | 
  | ■冷凍トンカス 
 | 
| もうひとつ、軽洋食トンカスの亜流として、廉価版「冷凍トンカス」の存在も見逃せません。こちらは、豚の一枚肉ではなく結着肉やひき肉が使われることが多く、豚肉に限らず鶏肉が混ざっていたり、肉以外のつなぎも入るため、「トンカス」のカテゴリーとしては限りなく境界に近い加工食品といえます。日本的な感覚では「メンチカツ」「ハムカツ」と呼ぶほうが近いかもしれません。 | 
| しかし、この冷凍トンカスが安価に設定された一部外食産業で使われることもしばしばあり、これはこれとしてコスト的にも受け入れられているようです。 | 
| 「トンカス」が「とんかつ」とは別物で、独自の変容を続けていること、これは外来料理全般に共通する現象でもあり、興味深いところといえましょう。 
 | 
  |  |