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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
「タンスユッ」(
)
は、衣をつけて揚げた豚肉に、いろいろな野菜の入った甘酢あんをかけた、韓国式中国料理のひとつ。
「糖水肉」という漢字が当てられることもあります。日本の「酢豚」と同じく、
「糖醋肉」あるいは「古老肉」と呼ばれる中国料理をルーツに持ちます。
タンスユッは、
数ある韓国式中国料理の中でも代表格の、そしてチャジャンミョン(
)やチャンポン(
)など簡易な麺料理より格上の、
国民的人気を誇る料理です。現在中高年の韓国人では、
タンスユッはお父さんの給料日や入学式、卒業式、誕生日など、家族で少し贅沢する日の外食メニューというイメージを持っている人が少なくないようです。
そもそも、本国中国の「糖醋肉」「古老肉」と呼ばれる料理は、地方により家庭により材料や味つけに様々なヴァリエーションがあり、北京式は概して肉メインで野菜はほぼ入れず、黒酢と醤油で仕上げた黒っぽい甘酢あん、広東式はケチャップ入りの赤い甘酢あんと色とりどりの野菜、四川式は唐辛子のたっぷり入った赤くて辛い甘酢あん、という特徴があるようです。
■タンスユッの歴史
韓国にタンスユッが入ってきたのは、
他の中国料理同様、20世紀初めごろ山東地方から渡ってきた中国(当時は清国)人が、「チョンヨリチプ」(
:清料理屋)を開いたことに遡ります。チョンヨリチプは
日本人をはじめとする金持ち相手の高級料理店でしたが、終戦によって朝鮮半島が開放され日本人が引き揚げた後は、
簡易な麺料理を中心に安くておいしくボリュームのある中国料理を提供する「チュングッチプ」(
:中国屋)として、韓国の人々から愛され、当時少なかった外食産業を長く支えました。
この時期に、「糖醋肉」はその広東方言「タンチュロー」から転じた「タンスユッ」(
)という韓国名で全国へ広がり、料理自体が次第に韓国ナイズされていきました。
1980年代に入ると、1988年のソウルオリンピックへ向けた都市開発と華僑の弾圧政策により在韓華僑は激減し、代わって韓国人の経営する「チュングッチプ」が爆発的に増えていきます。韓国社会の近代化によって外食産業全体が競争の時代へ入ると、「チュングッチプ」の料理からも手作りの味が失われ、味も値段も均一化された現在のイメージへつながっていきます。
■韓国式タンスユッの特徴
タンスユッは、チュングッチプで食べられるほかに、家庭でもよく作って食べられています。
韓国式タンスユッは、甘酢あんに特徴があり、甘酢あんの調理法によって大きく3つのタイプに分けることができます。
@
甘酢あんを煮からめる方法。甘酢あんを合わせて煮立たせた鍋に、揚げた肉と野菜を入れ、強火で全体をからめて仕上げます。
A
甘酢あんをかける方法。揚げた肉を器に盛り、甘酢あんに各種の野菜を入れてアツアツに煮立て、肉の上からかけます。この方法だと、大家族などで食べるタイミングがずれる場合でも、肉や野菜はまとめて揚げておいて、その都度アツアツの甘酢あんをかけて提供することができます。
B
甘酢あんをディップにする方法。揚げた肉を器に盛り、甘酢あんを別の小鉢に入れて添えます。甘酢あんには各種の野菜が入っていることもあります。この方法だと、カリカリに揚がった肉を、カリカリのまま甘酢あんにディップして食べることができます。
現在では、AとBが人気のようです
。また、Bのように別に添えられた甘酢あんを、Aのように自分で肉にかけて食べることもあります。
そして、B式にディップする人のことを「チンモッパ」(
:つけ食べ派)、A式にかける人のことを「プモッパ」(
:かけ食べ派)と呼ぶなど、流行語まで生まれました。
そのほか、韓国式タンスユッの特徴として次のような点も挙げられます。
@
揚げ肉の特徴。豚肉は太目の棒切りにして下味をつけ、水とき片栗粉と卵白を混ぜたトロトロの衣をまぶして揚げます。焦げ色をしっかりつけてカリッと揚げるよう、二度揚げが推奨されています。
A
赤・黄・緑のパプリカやきゅうり、紫キャベツ、パイナップル、きくらげなどを使って、色とりどりに仕上げる傾向があること。
B
甘酢あんの工夫。味の決め手となる甘酢あんは、醤油と砂糖、酢、酒を混ぜ合わせたシンプルなものから、鶏スープにケチャップ、オイスターソース、おろしにんにく、黒酢、オリゴ糖、レモン果汁、グレープフルーツ果汁を使ったものまで、調味料の配合はさまざまです。しかし、いずれも水とき片栗粉を使ってとろみを出すところに、中国料理の基本的な調理法が踏襲されているのを見ることができます。
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