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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
インド発祥で世界各地に普及し、さまざまにアレンジされている人気料理、カレー。カレーが、当時の宗主国イギリス経由で「洋食」として日本に初めて入ってきたのは、明治初期にあたる1870年。それからわずか100年ほどの間に、カレーは押しも押されもせぬ日本の国民食となり、不動の地位を保ち続けています。その背景には、戦前は軍隊の、戦後は学校給食の定番メニューとして全国民の舌に馴染んでいったこと、日本の「国民技」ともいえるアレンジ技術でインスタント・カレールーが開発され、家庭で手軽にカレーが作れるようになったこと、ご飯にかけて食べる簡便なスタイルが受容されやすかったこと、などが挙げられます。
ともあれ、こうして変容・定着した日本式カレーが、時を少し置いて韓国へ入り広がっていった歴史は、韓国における他の外来料理の流れと重なります。
■韓国におけるカレーの歴史
韓国ではカレーのことを
(カレ)、もしくは
(コリ)といいます。前者は「カレー」という日本語から転じたもので、
比較的古くから使われてきました。それに対して、近年使われ始めたのが
(コリ)です。こちらは英語の「curry」
から転じたもので、インド料理店など本格的なカレーを意識する場ではこちらが使われています。
ちなみに、
インドの主要言語であるヒンディ語では「curry」に該当する料理名はなく、
「curry」の語源はインド南部で主に使われているタミル語の、
おかずなどを意味する「
」(カリ)であると言われています。
さて、朝鮮半島に初めてカレーがもたらされたのは、李氏朝鮮王朝末期にあたる19世紀末のことで、一部開港した日本人居留地で、洋食店のメニューのひとつにカレーがあったと伝えられます。
その後、日本統治時代にかけて他の日本料理と同様に日本式カレーが朝鮮半島へ流入していきましたが、当時の朝鮮半島では、日本でもそうであったように、カレーは一部の富裕層にしか食べられない高級な洋食でした。また朝鮮半島の場合は、35年にわたる日本統治と、解放後も数年を待たずに起きた朝鮮戦争により国土が荒廃し、食糧難で多くの国民が米飯を十分に食べられない時代が続いたため、一般庶民へカレーライスが普及するのには時間がかかりました。
韓国で即席カレー粉が初めて製造販売されたのは、独裁政権による強力な近代化政策が始まったばかりの1969年。ルウではなくカレー粉から作る韓国式カレーの原点はここにあり、その後も続いていきます。しかし、カレー粉が発売されても、実際に韓国にカレーが根付いていくスピードは、日本に比べて緩やかでした。それは、前述のとおり韓国の食糧事情もありますが、スパイスなどの輸入食材が他の物価と比べて極めて高いことや、スパイシーな異国風味が韓国人の嗜好にあまり合わなかったことも影響したのではないかと考えられます。
カレー粉が発売されてから19年後、政権が代わって民主化の兆しが見え始めた1980年には、レトルトカレーも発売されました。その間、軍隊と学校給食を通して少しずつカレーが普及していった現象は、日本と似ています。
■韓国のカレー事情
韓国で目にするカレーは、概して色が黄色くサラサラしており、固めのじゃがいもやにんじん、ピーマンがゴロゴロ入っており、全体的にスパイス度・煮込み具合・味わいとも淡白な一昔前の日本の素朴なカレーに近いもの。この韓国式カレーは、粉食店[プンシッチョム]と呼ばれるファストフード・チェーン店やフードコートなどで食べることができ、ラーメンや海苔巻きと同レベルのメニューとなっています。
そしてここ数年、
ソウルや釜山を中心に日本のカレー専門店が進出し、ルウが茶色で具もとろりと煮込まれた、少し高級感のある「日本式カレー」(
:イルボンシッ カレ)
が脚光を浴びるようになりました。
さらに、本場インドカレー店も次々と出現し、ナンの添えられたスパイシーなカレーが提供されています。
特徴的なのは、つけ合わせです。
韓国式、日本式では定番の白菜キムチのほか、カットゥギ(
:大根の角切りキムチ)やタクアンも。インド式ではピクルスがよく使われます。
そして、
食べ方にも韓国の食文化がはっきりと表れるのが興味深いところです。食べる前に全体をスッカラッ(
)
と呼ばれるスプーンでまんべんなく混ぜること。これはピビンパ(
)
やピビン麺(
)
に限らず、トッパプ(
)
と呼ばれるさまざまな丼料理を食べるときにも、そして納豆やふりかけをご飯にかけて食べるときにも、
共通して見られる食べ方です。
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