韓国庶民の手軽なファストフードとして、老若男女を問わず人気の高い、韓国式ラーメン、「ラミョン」()。市販のインスタントラーメンを買ってきて家で作ったり、「粉食店」(プンシッチョム:) と呼ばれる街中の簡易なファストフード店や屋台、フードコートなどでも安く食べることができ、今や韓国の国民食ともいえる食べ物です。 |
ラミョンの特徴は、以下のとおり。 |
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一言でいうと、インスタントラーメン(即席麺)の一種。 |
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麺は、インスタントラーメンに使われている乾燥麺。麺を油で揚げた「油揚げ麺」が主流で、近年は揚げずに熱風乾燥させた「ノンフライ麺」も登場。
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スープの味は概して辛く、唐辛子、にんにく、胡椒などのスパイスがきいている。
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■韓国の飲食店で食べるラミョン
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外来料理がその国の人々に受け入れられ普及し定着していく過程では、多くの場合、料理が変容していきます。それは、もとの外国料理にその国の人々の好みが反映されていく過程でもあります。同じ国でも人の好みには個人差がありますが、それでも国民の多くに好まれる範疇へと、料理の味や見た目、食感、盛りつけ、仕込み方法などが方向づけられていきます。
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日本のインスタントラーメンが韓国に入り「ラミョン」として普及、定着していく過程でも同様の現象が見られ、決してラミョン=ラーメンではなく、別の食べ物であることを再認識させられます。
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ラミョンの特徴は上述のとおりですが、それ以外にもたとえば次のようなラミョンの風景をとらえることができます。 |
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飲食店で出てくる「ラミョン」は、インスタントラーメンを煮ただけのものがほとんどです。卵やネギ、唐辛子、キムチなどが乗っていることもありますが、概して具は少なめ。簡便に済ます朝食あるいは昼食、小腹を満たす間食あるいは夜食、お酒を飲んだあとのシメ、といった軽食的な位置づけの食べ物といえます。 |
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日本でラーメン専門店といえば一般に、生麺に自家製スープ、叉焼や燻卵、山盛りの白髪葱といったこだわりが多少なりともありますが、韓国の飲食店のラミョンにはこうしたイメージはほぼありません。(日本でも廉価に設定されたスーパーのフードコートや、高速道路のサービスエリア、スキー場などで、今でもこれに似たレベルのラーメンを見かけることはあります)
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近年、ソウルにも日本のラーメン専門店が進出しています。日本式ラーメンは「ラミョン」()ではなく「ラメン」()と表記されます。日本式ラーメンのうち、豚骨や豚の背脂を使ったような脂っこく塩味が強いものは韓国では受け入れられにくい傾向がありましたが、粗びきブラックペッパーやフライドガーリックを多用し、若者を中心に人気が広がっています。価格は一般のラミョンよりかなり高めです。
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袋入りのインスタントラーメンを買ってきて家で煮る場合、一人分がぴったり入る小型アルマイト鍋で煮て、鍋のまま食べるスタイルもしばしば見られます。韓国ではもともと、チゲなどには「トゥッペギ」()という、鍋と食器を兼ねた土鍋を使ってきた習慣があります。
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■ラミョンの歴史
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韓国で生産されたインスタントラーメンの第一号は、1963年、まだ設立間もない「三養[サミャン]精油株式会社」(現在の三養食品)から販売された「三養ラミョン」()でした。
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当時の韓国は、朝鮮戦争後の深刻な食糧難と混乱のさなかにあり、韓国政府はアメリカから提供される余剰小麦を主食にすることを半ば強制する「粉食奨励政策」をとっていました。
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三養の創業者、全仲潤[チョンチュンユン]は当時、日本で開発されて間もなかったインスタントラーメンを試食したときから考えていた「いつかこれを韓国でも作って食糧難を解決したい」という熱い思いと、政府の粉食奨励政策が合致して1963年、政府から資金を得てインスタントラーメンの製麺機と技術提携のために日本を訪れました。そして、全氏の訪れた何社かの即席麺会社のうち唯一、ロイヤルティなど一切要求せず無償で技術指導とレシピ提供に応じた「明星食品」の協力により、韓国初のインスタントラーメン工場がソウルに開設されました。
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当時はまだ日本と韓国に国交がなく(日韓基本条約の締結は2年後の1965年)、日本の即席麺業界では特許をめぐって泥沼の争いが繰り広げられていました。そんな時代に、明星が三養に対して常識では考えられない技術提供を行った背景には、当時の明星社長、奥井清澄氏がその前年にイタリアのパスタ会社から無償でパスタ製造技術指導を受けて感銘したこと、そして朝鮮戦争の災禍で厳しい食糧事情の続く韓国と、一方でその特需にあやかった日本を対比させ、民間外交のつもりで全面協力を約束したといわれています。全氏の清廉潔白で情熱的な経営者としての人柄に、奥井氏が魅せられた部分も少なからずあったようです。
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三養ラミョンは発売当時、1袋10ウォン(約1円)という安さで、スープを辛く改良したり無料試食会を開いて宣伝するうちに、庶民の食べ物として脚光を浴びていきました。と同時に、韓国内では「ロッテ」「東方油糧」「豊年食品」「豊国製麺」などの製麺会社から、さまざまなネーミングのラミョンが発売されるようになります。
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1970年には小麦粉や油脂の価格引き上げによりラミョン1袋が20ウォンに、1978年には50ウォンになりました。1970年代を通して製麺技術が進むと、チャジャンミョン(:炸醤麺)、カルグクス(:煮込みうどん)、ネンミョン(:冷麺)など、ラミョン以外の即席麺も次々と発売されました。韓国初のカップラーメンも、1972年に三養から発売されました。 |
1980年代になると、価格は1袋100ウォンを超え、商品ごとに価格設定がされるようになります。ロッテから社名変更した「農心」がこのころ急成長を続け、三養を抜いて業界1位となり、1986年には「辛ラミョン」()を破格の200ウォンで発売。その直後、三養がアメリカ産の非食用牛脂を使用しているという匿名の情報提供による騒動(1998年に無罪判決)で、三養は壊滅的な被害を受け低迷していきます。 |
2000年代以降も、ラミョン業界は新規参入と新商品開発が続き、ラミョンはすっかり韓国の国民食となりました。世界インスタントラーメン協会の調査によると、2018年、韓国はインスタントラーメンの一人当たり年間消費量が世界第1位で、成人一人当たり74.6食という結果が出ています。
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■ラミョンサリ
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韓国では、ラミョンサリ()あるいはサリミョン()といって、インスタントラーメンの麺だけが家庭用にも業務用にも市販されています。
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ラミョンサリがよく使われるのは、部隊[プデ]チゲ()と呼ばれるハム・ソーセージなどの入ったジャンキーなチゲで、最後に必ずラミョンサリを入れて食べる習慣があります。ほかにも、チゲやチョンゴル()など鍋料理の仕上げに入れたり、コムタン(:牛テールの白濁スープ)やソルロンタン(:牛内臓の白濁スープ)、ユッケジャン(:牛肉や野菜の激辛スープ)などのスープ料理、さらにはタッカルビ(:鶏と野菜の甘辛炒め)、ナッチポックム(:手長だこの激辛炒め)などの炒め物にも、好みでラミョンサリを混ぜたり、茹でたラミョンサリを添えて一緒に食べることがあります。 |
また、次のような料理にもラミョンサリは使われます。
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・ピビンミョン() |
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混ぜ麺。茹でたラミョンサリに野菜や卵などの具や薬味調味料(ヤンニョムジャン)をのせ、全体を混ぜて食べる。
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・ポックムミョン() |
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焼きそば。玉葱やピーマン、にんじんなどの野菜にさつま揚げ、肉、魚介などを入れて、焼きそば状に甘辛く炒め煮する。
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・ラッポッキ() |
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麺入りトッポッキ。ラミョンサリを棒餅(トッ:)や野菜、さつまあげなどとともに、コチュジャンやにんにく、醤油、砂糖などで汁を多めに甘辛く炒め煮にする。 |
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