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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
晩秋に、その冬中食べるための大量のキムチを漬け込む韓国独特の越冬準備、キムジャン(
)。
キムチの種類がいろいろある中で、キムジャンのメインは白菜キムチ、そして大根のキムチです。
かつては、野菜が端境期となる厳しい冬の間の貴重な食糧の仕込みとして、キムジャンは韓国のどの家庭でも当たり前に行われていた作業でしたが、ビニールハウス栽培で野菜の流通時期が長くなったことや、市販のキムチが普及したこと、核家族化、住宅事情、作業の大変さなどから、近年はキムジャンをする家庭が激減しました。その一方で2013年、キムチがユネスコの無形文化遺産に登録されるなど、韓国固有の食文化を見直す動きもあり、キムジャンは依然、韓国の風物詩を彩っています。
■キムジャン作業の流れ
何十株、ときには何百株もの白菜をキムチにしていく一連のキムジャン作業は、親戚や近所の主婦どうし日程をずらして助け合うほど、手間のかかる大がかりな仕事です。漬け方や材料などは家によって異なりますが、一般的に次のような流れで進んでいきます。
@<材料の購入>
白菜や大根など主材料となる大量の野菜と、塩辛、薬味などの副材料を、品質や価格、タイミングを吟味しながら用意していきます。市場へ買いつけに行く従来の方法に加えて、昨今はインターネット通販を利用する人も増えているようです。
A<白菜の塩漬け>
白菜を半分または1/4に切って塩水にくぐらせ、大きな容器に隙間なく積み重ねて塩水を注ぎ入れます。白菜に直接塩をふることもあります。重石をして1〜2日置き、白菜がしんなりしたら流水でよく洗ってザルに上げ、しばらく置いて水をきります。
B<ヤンニョム(薬味)作り>
にんにく、生姜、果物(りんご、梨、柿など)は、細かく刻むかミキサーにかけ、葱、にら、芹などは適当な長さに切ります。米粉またはもち米粉を水でといて火にかけ、薄めの糊を作ります。煮干しや昆布でダシ汁をとることもあります。これらに唐辛子粉(粉挽き、粗挽きなどを配合)、塩辛(アミ、いか、鰯など)、魚醤、砂糖などを加えて混ぜ合わせます。牡蠣やイカ、海老など生の魚介や、海藻を入れることもあります。
C<白菜にヤンニョムをぬる>
よく水のきれた白菜の葉の間に、ヤンニョムをまんべんなくぬっていきます。ヤンニョムの固形物も残さずはさみこみます。全部ぬれたら甕や密閉容器などに隙間なく詰めて空気を抜き、表面を白菜の外葉やラップで覆って蓋をします。
D<発酵・熟成>
温度管理に注意して発酵・熟成させます。温度によって発酵にかかる期間やその後の保存期間が変わりますが、上手に管理するとおおむね1〜2週間後から3〜4ヵ月の間、浅漬けから深漬けまでそれぞれの味を楽しむことができます。キムチ専用冷蔵庫は、長期間のキムチ保存に適しています。
■キムジャンのタイミング
その年のキムジャン作業をいつするのがよいか、毎年それは韓国中の一大関心事となります。かつては、立冬前後がキムジャンに適した時期という認識がありましたが、近年は温暖化と貯蔵方法の進歩、野菜が長期間にわたって栽培されるようになったことなどから、キムジャンの時期が遅くなる傾向にあります。
毎年11月に入ると、韓国気象庁や民間の気象業界から、その年のキムジャンのおすすめ日が地域別に発表されます。日本の桜開花予想図さながら、朝鮮半島の地図上に等高線のようなキムジャン前線が描かれた図をしばしば目にします。昨年のおすすめ日は、ソウルから中部の内陸地方が11月下旬、南部地方と東西海岸地方が12月上〜中旬、南海岸地方と済州島が12月下旬でした。気温でいうと、一日の平均気温が4℃以下で最低気温0℃以下になる日が続き始めたころ、というのが定説です。気温がそれより高いとキムチの発酵が早く進みすぎてしまい、逆に低いと白菜や大根が凍ってうまく発酵しません。
また、こうした気候条件に加えて、その年の野菜の価格変動状況や、地域ごとに開かれる大規模なキムジャン材料直売市場の日程などが、実際の日取りには関係してくるようです。
■キムジャンの経済的側面
キムジャンは、人手のみならず費用の段取りも大変です。
毎年、韓国農林畜産食品部から4人家族の平均的なキムジャンにかかる金額が発表されますが、それによると2017年が244,000ウォン(約24,400円)、2016年が273,700ウォン(約27,370円)でした。ただし、これは市場で材料を買った場合の金額で、大型スーパーやインターネット通販を利用すると4〜5割高になるようです。
また近年では、大変な白菜の塩漬け作業を避けるため、少し費用はかさんでも塩漬けされた白菜を購入してキムチに仕上げる、というスタイルがトレンドのようです。韓国では白菜の売上量減少とクロスするように、塩漬け白菜の売上量が年々増加しています。
時代を遡れば、韓国経済が急成長した1970〜90年代、まだクレジットカードもなく、月給3〜4か月分もかかるキムジャン費用を賄うために、サラリーマンには会社から「キムジャンボーナス」が支給されたこともありました。
その後、社会の推移とともにキムジャン自体が減少する中で、新しくキムジャン体験イベント(参加費を払ってキムジャンを体験しキムチを持ち帰る)や、大がかりなキムジャンボランティア行事(スポンサーとボランティアによる大規模なキムジャン。できたキムチを貧困層に贈る)が企画されるなど、形を変えてキムジャン文化が韓国で息づいていることがわかります。
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