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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
朝鮮半島の通過儀礼のひとつに、「トルチャンチ」(
)
という、子どもの1歳の誕生日を祝う伝統儀式があります。「トル」(
)
とは、毎年巡ってくる特定の記念日の、「●周年」「●年目」を表す韓国語で、「チャンチ」(
)
とは「宴」「祝賀パーティ」を意味します。「トル」についてはかつて、年齢をさすときは「
」、年齢以外のものをさすときは「
」
と、同じ発音でも表記を区別していましたが、1988年の韓国文教部による標準語規定改正により、「
」
に一本化されました。
韓国では一般に、トルチャンチに限らず百日祝い、結婚式、還暦祝い、誕生日など、記念日があると家族や親戚、友人、職場の上司や同僚などを大勢呼んで盛大に祝宴を催す風習があります。親族のつながりを大切にすると同時に、友人知人とも賑やかで濃密な人間関係を積極的に築く民族性が、時代の変遷とともに形を変えながらも息づいていることがわかります。
中でも特徴的な一大イベントが、トルチャンチ。子どもが初めての誕生日を無事迎えられることは、家族にとってこの上なく嬉しいことで、乳児死亡率の高かった時代は言うまでもなく、こんにちでも前途洋々たる子どもの幸せな将来を願って大々的に催されます。
もともとは自宅で、手作りの料理を並べて行われていたトルチャンチですが、現在ではホテルや礼式場、レストランを貸し切って結婚式さながら華やかに開かれることが多くなりました。何ヶ月か前に会場を予約して規模や内容を打ち合わせ、親戚や友人を招待し、晴れの日に子どもが着る韓服や夫婦の晴れ着を仕立てたり、返礼品選び、アルバム作りなど、準備にかかるエネルギーも費用も相当なものですが、費用のほうは招待客や両家の祖父母、あるいは職場からいただくご祝儀で賄えることも多いようです。
■トルチャンチの流れ
トルチャンチ当日の内容や形式は、予算や好みで主催者が比較的自由に決めることができ、およそ次のような流れが多いようです。
まず、当日は正装した夫婦が会場で来客を迎えて挨拶することから始まります。来客はご祝儀やプレゼントを渡して宴会場に入ると、好きな席に座ってビュッフェスタイルの食事を自由に楽しみます。このとき、子どもの成長ぶりや家族で撮った写真・映像などが流れることもあります。
そしてひととおり食事が済んだころ、司会者に紹介された主役の子どもと夫婦が登壇します。この会の盛り上がりはひとえに司会者の腕前にかかっているだけに、愉快なトークやハイレベルな歌、ダンスなど司会者の体を張った活躍ぶりに、ここでも韓国ならではの民間文化の一幕が垣間見られます。
さて、主役に注目が集まる中、式のメインである「トルチャビ」(
)
という儀式が行われます。「チャビ」とは握ること、掴[つか]むことを意味し、
お膳の上に置かれたいろいろなものの中からどれを子どもが掴むかによって、
その子の将来を占うというものです。
このときのお膳を「トルサン」(
)
といい、トルサンに置くものや意味の解釈は必ずしも決まっているわけではありませんが、一般的に次のようなものがあります。
・糸→長寿
・硯[すずり]→学者
・筆、鉛筆→教師、公務員
・お金→お金持ち
・小槌→裁判官
・弓(男児)→精悍な武将
・なつめ、栗→子孫繁栄
・米、餅→食いはぐれない
その他、医者を意味する聴診器、歌手や芸能人を意味するマイク、プログラマーを意味するマウス、電卓、ミニカー、ゴルフボール、絵筆、泡立て器など、主催者の好みで自由に置かれるものが増えてきました。
また、トルチャビ用のトルサン以外にも、幾種類もの餅や果物を積み上げたお膳や、麺やチヂミ、ナムル、わかめスープ、尾頭つきの鯛など伝統料理を並べたお膳も用意されます。
トルチャビが始まると、場は一気に盛り上がります。トルサンの前に連れて来られた子どもの反応はさまざまで、物怖じせずお膳の上のものを掴む子、驚いて泣き出す子、じっと動かない子…。周りの大人たちはやんややんやとはやしたて、固唾を飲んで見守る両親や祖父母の中には、気に入らないものを子どもが掴みそうになると別の方へ関心を向けさせようとちょっかいを出す人も。小さな子どもを囲んで大人たちが意外なほどムキになる情景は、これもまた情熱的な韓国人の国民性を表しているといえましょう。
無事子どもが何かを掴んで拍手大喝采のうちにトルチャビが終わると、次は記念撮影。来場者全員で集まって撮り、親族で撮り、個々にも撮ります。それからまた、食事やデザートを食べながら自由な団欒タイムとなります。その間に、楽器の生演奏や司会者による歌やダンス、ゲーム、クイズ、プレゼントの抽選などが入ることもあります。最後に主催者である両親や祖父母からの挨拶で閉会となります。
■トルパンジ
韓国ではトルチャンチに合わせて、
祖父母や友人から子どもに金や銀の指輪やブレスレットを贈る風習があります。指輪は韓国語で「パンジ」(
)
といいますが、トルチャンチで贈られる指輪は「トルパンジ」(
)といいます。トルパンジは、子どもがすぐにはめるためではなく、
子どもの将来の富を願う意味と、大事にとっておいて教育費用などその子のために将来使ってほしいという意味があります。
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