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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
韓国では、7月中旬から約1ヶ月間を暦の上で「サムボッ」(
:三伏)
あるいは「ポンナル」(
:伏日)
といって、年間を通して最も暑さの厳しい特別な季節ととらえられています。
サムボッの正確な日にちは年によって変わります。
夏至から数えて3度目の庚[かのえ]の日を「初伏」(チョボッ :
)
、4度目の庚の日を「中伏」(チュンボッ:
)、立秋後初めての庚の日を「末伏」(マルボッ :
)
といい、この三つを合わせた期間が「三伏[サムボッ]」です。
ちなみに「庚」は陰陽五行説における十干[じっかん]のひとつで、十干を順に記すと次のとおり。
甲(きのえ=木の兄)
乙(きのと=木の弟)
丙(ひのえ=火の兄)
丁(ひのと=火の弟)
戊(つちのえ=土の兄)
己(つちのと=土の弟)
庚(かのえ=金の兄)
辛(かのと=金の弟)
壬(みずのえ=水の兄)
癸(みずのと=水の弟)
そして庚は、木火土金水の五性のうち「金」の性を持ち、相剋関係では「火」に剋される関係にあります。一方、季節上では夏が「火」に相当するため、夏の季節における庚の日は「伏」すなわち凶であるとされます。
2018年の暦では、初伏が7月17日、中伏が7月27日、末伏が8月16日となっています。梅雨明けから約1ヶ月にわたる、まさに酷暑の季節といえましょう。
■サムボッの補養食
韓国ではサムボッの時期を迎えると、暑さで体力が落ちて夏バテするのを防ぐために、「補養食」(ポヤンシッ:ポヤンシッ)といって滋養豊かな食べものを食べる習慣があります。日本の「土用の鰻[うなぎ]」と同様の風物詩といえます。
補養食の代表的なものは、次のとおりです。
・サムゲタン(
:蔘鶏湯)
丸鶏のお腹に高麗人蔘やもち米、なつめ、にんにくなどを詰め、その他の漢方薬材とともに長時間煮込んだスープ。最後に塩で味をつけていただきます。韓国にはサムゲタン専門店があり年間を通して食べられる料理ですが、特に三伏の季節は繁忙期を迎えます。
・ケジャンクッ(
:狗醤汁)
犬肉を漢方薬材や野菜とともに長時間煮込んだスープ。別名「ポシンタン」
(
:補身湯)。
朝鮮半島では伝統的に犬肉を食す文化がありますが、昨今は動物愛護論上、
国を挙げて取り締まりが行われたこともあり、表通りからは看板が見られなくなりました。
しかし、庶民の補養食としてこの料理がなくなったわけではありません。犬肉は陰陽五行上、
強い「火」の性を持つ食材のため、庚の「金」を剋すという解釈から、三伏期間中の薬効と厄払いの意味で尊ばれてきました。
・ユッケジャン(
:肉狗醤)
牛肉を野菜とともに煮込んだ辛いスープ。牛のスネ肉や硬い赤身肉、あるいは内臓を煮込んで作ります。ケジャンクッの代用として、犬肉に代わる牛肉スープが補養食となった向きもあります。
・チュオタン(
:鰍魚湯)
どじょうを煮込み、中骨を取り除いて野菜とともに柔らかく煮込んだスープ。地方によりさまざまな作り方があります。
・パッチュッ(
)
小豆粥。小豆を柔らかく茹でてつぶし、その茹で汁に米を入れて粥を炊いた後、つぶした小豆をもどして混ぜ合わせ、一度茹でた白玉団子を浮かべます。甘い味ではなく、薄い塩味に仕上げます。韓国では小豆粥を冬至に食べることが有名ですが、赤い色が邪気を払うという意味で、三伏にも食べる伝統があります。
ここからもわかるとおり、三伏の補養食は熱い汁料理というのが特徴です。熱い季節に熱々の汁ものを食べて大汗をかくことで、新陳代謝・体内循環が高まりデトックスが促進されるという、いわば「以熱治熱」(
:イヨルチヨル=熱を以って熱を治める)の考え方です。これは、温度が高いだけでなく、身体を芯から温める性質のある畜肉や高麗人蔘、生姜、にんにく、唐辛子など、食材による効果も絶大です。また、高タンパクの食材を長時間煮ることにより、スープに栄養分が溶け出て体内で吸収されやすい、という利点も見逃せません。
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