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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
韓国料理の酒肴シリーズ、最終回は「ユッポ」(
)です。
ユッポは漢字で「肉脯」と書き、熨[の]した干し肉をさします。肉(主に牛肉)の赤身を薄切りにして味つけし乾かしたもので、モンゴル料理の影響を受けて朝鮮半島に古くから伝わる保存食のひとつです。
伝統的なユッポは、当時は極めて高価だった牛肉を手間ひまかけて加工した高級食品で、宮中料理として、あるいは婚礼や還暦祝いの宴会膳に欠かせない特別な食べものという位置づけにありました。
ユッポに使われる肉は、脂の酸化を避けて完全な赤身部位が向いており、正統派の牛肉に加えて馬肉、犬肉、猪肉、鹿肉、雉肉、七面鳥などでもユッポが作られてきた例があります。また独自の食文化が発達した済州島では、現在、地産地消の流れの中で黒豚や馬肉のユッポが特産品として売り出されています。
■ユッポの作り方■
@
牛赤身の薄切り肉を用意します。脂身の混じっていないモモ、ロースなどが向いています。ブロック肉を切る場合は繊維に直角に、なるべく面積を広くとるように、厚さ約2mmにスライスします。
A
肉の水分をふき取ります。ペーパータオルなどで両面をはさみ、圧着させて十分に水気を抜きます。
B
肉に味をしみこませます。伝統的なユッポの場合、しょうゆ、蜂蜜、胡椒などを混ぜ合わせたシンプルなタレを肉にもみこみ、半日〜1日置きます。好みで酒、生姜、にんにく、ねぎ、梨、りんご、その他各種スパイスを加えます。
C
肉を網に広げて乾燥させます。乾燥させる方法は食品乾燥機、冷蔵庫、扇風機、寒風に晒すなど。保存性を高めるために煙で燻して燻製にする場合もあります。元来は熱をかけずに常温で乾燥させるものでしたが、食品乾燥機を使う場合は滅菌を兼ねて70℃ほどに設定することが多いようです。途中で肉が丸まったり捩じれたりしないように、表裏を返しながら完全に乾燥させます。
もともと、ユッポはこのように赤身肉の薄切りを乾かして作るものでしたが、実際に食べてわかるように、でき上がりはとても硬く、保存食とはいえ食べづらいものです。そこで、赤身肉をひき肉もしくはみじん切りにしてから調味して薄く熨し、網焼きするという方法が近代以降、登場します。この方法だと同じ材料・味つけでも柔らかく美味しく食べられます。一方で、本来の目的であった「保存性」はかなり落ちることになり、生肉を乾かして長期保存させる必要性がなくなってきたという時代変遷を考察することができます。
■ユッポのビーフジャーキー化■
「干し肉」自体は世界各地で古くから存在したもので、中でもアメリカ大陸先住民の保存食をルーツとするビーフジャーキーは有名です。
もともとユッポという素朴な伝統食の存在した韓国ですが、近年スパイシーな輸入ビーフジャーキーの魅力にひかれて、韓国内でもビーフジャーキーそっくりの商品が製造販売されるようになりました。現在いくつものメーカーから多様な商品が出ていますが、品名は「ユッポ」、あるいは「ユッポ」と「Beef Jerky」の併記が多く、「ユッポすなわちビーフジャーキー」というイメージが確立しているようです。
味つけは「ガーリックバーベキュー味」「クレイジーホット」「マイルド」「チーズ入り」「アーモンド入り」などのヴァリエーションがあり、オーストラリア産やニュージーランド産の牛肉が多い中で、「国産」(韓国産)を謳って高級感を打ち出しているものもあります。
特筆すべきは、もともと稀少品として地味な酒肴にとどまっていたユッポが、工場生産品になったことで韓国版ビーフジャーキーとして大衆化し、酒肴の枠を超えて若者や子どものおやつとして人気を得、普及しつつある点といえましょう。
■「乾きもの」いろいろ■
酒肴の中で「乾きもの」を、韓国語で「マルン アンジュ」(
)といいます。
数ある「マルン アンジュ」の中でも、ユッポは高級品といえますが、
もう少し卑近な「マルン アンジュ」に魚の干物やナッツ類があります。魚の干物を韓国語では「オポ」(
:魚脯)といい、次のようなものがあります。
・チュイポ
(
):カワハギの干物
・ムノポ
(
):タコの干物
・テグポ
(
):鱈の干物
・アグポ
(
)またはアグィポ(
):アンコウの干物
※「ポ」(
:脯)とは、動物性の食材を熨して乾燥させたものを意味します。
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