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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
略語や流行語の多く飛びかう韓国語の中で、
近年生まれ、呑兵衛には聞くだけで心が浮き立つ略語のひとつに「チメッ」(
)があります。
チ(
)はチキン(
)すなわちフライドチキン、
メッ(
)はメッチュ(
)すなわちビールのことです。
韓国で鶏肉は、牛肉、豚肉と並んで古くからよく食べられてきましたが、現代の韓国では、特にフライドチキン(鶏の唐揚げ)は国民的人気料理といっても過言ではありません。その、チキンとビールの黄金の組み合わせが、「チメッ」です。
■「チメッ」の由来■
1984年、
アメリカ資本の「ケンタッキーフライドチキン」が韓国資本と合弁でソウルに第1号店をオープンさせたのが、
韓国に現在のスタイルのフライドチキンをもたらした瞬間であったと言われます。
それ以前にも、「トンダッ」(
:丸鶏)と呼ばれる素朴な鶏の丸焼きや揚げ物は韓国にありましたが、
衣をつけてカリッと揚げ独特の複合調味料で味つけしたこの料理は、
「チキン」「フライドチキン」という新たな名称で一世を風靡し、韓国における外食産業成長の波に乗って、
1990〜2000年代にかけ店舗数を飛躍的に伸ばしました。
そして、
それと時をほぼ同じくして出現した「ホプチプ」(
)と呼ばれるビアホールこそが、「チキン+ビール」の組み合わせの生みの親となったと言われます。
「ホプチプ」のホプはドイツ語の
(宮廷の醸造所の意味)を語源とし、
「東洋ビール株式会社」(現OBビール株式会社)
が生ビールの飲める居酒屋をチェーン展開するにあたり、店名を「OB
」(オービーホプ)としたことに始まります。
1980年代の韓国では、
ポップコーン、干し鱈、ピーナツなどの乾きものを肴に安価な焼酎やマッコルリ(
:どぶろく)の盃を傾けるのが庶民の酒飲みスタイルでしたが、「OB
」が憧れの生ビールとチキンとセットで売り出すと、
瞬く間に大学生やサラリーマンの胃袋をわしづかみにし、
爆発的に店舗数が増えていきました。その中で、「家」「屋」を意味する韓国語「チプ」
)をつけた合成語「ホプチプ」が、生ビールの飲める居酒屋の代名詞となりました。
その後、韓国で1997年に安価な外国産冷凍鶏肉の輸入が本格的に自由化すると、外資系のチキンチェーン店が続々と韓国に上陸し、多様なブランドでチキン業界に新たな風を吹き込みました。
一口にチキンといっても、
衣の種類、味つけの配合、鶏のどの部位を使うかなどにより、メニューはさまざまです。
一般に、下味をつけた衣を鶏肉にまぶしてカラリと揚げた後、さらにソースをからめたり、
チキンに添えられたソースを好みでつけながら食べる「ヤンニョムチキン」(
)と呼ばれるスパイスのきいたものが人気筋です。ソースの配合は
、コチュジャン、にんにく、とうがらし、胡椒、生姜、ごま、しょうゆ、砂糖、ごま油など韓国の基本的な薬味香辛料に加え、
ケチャップ、水飴、カレー粉、マスタード、いちごジャムなど、さまざまな工夫が凝らされます。
ほかに、蜂蜜バター味、酢豚味、レモン醤油味、オニオンスライスのせ、白髪ねぎの薬味和えのせ、ソースでとろりと照りよく仕上げたもの、竜田揚げのようにカラリと仕上げたもの、生クリームでマイルドに仕上げたものなど、味のヴァリエーションには限りがありません。
肉にまぶす衣については、市販の「唐揚げ粉」のようなものがよく使われますが、小麦粉をベースに片栗粉、タピオカ澱粉を配合したり、塩、胡椒、カレー粉、ガーリックパウダー、粉とうがらしで下味をつけ、牛乳や水で溶くようなこだわりレシピもあります。
■「チメッ」とスポーツ観戦■
ところで、韓国の「チメッ」人気はスポーツ観戦と切っても切れない関係にあるといわれます。その大きな流れを作ったのが、1982年の韓国プロ野球リーグ誕生と、翌1983年の韓国プロサッカーリーグ誕生。この二大プロスポーツリーグの誕生により、人々は居酒屋や自宅のテレビの前で「チメッ」とともに熱く観戦するライフスタイルが生まれ、定着していきました。
そして、何よりも「チメッ」人気を沸騰させたのが、2002年の日韓共同開催サッカー・ワールドカップでした。当時の「チメッ」熱は、「チキン屋がワールドカップ特需を狙った」と陰口を叩かれるほどだったといわれます。
その後、韓国ではサッカー熱が沈静化し、健康的で環境とも親和性のある生活を希求する「wellbeing」旋風が吹きはじめると、「チメッ」の高カロリー、高塩分、プリン体、トランス脂肪酸といった健康への悪影響を指摘する声が聞かれるようにもなりました。
とはいえ、「チメッ」の魅力はその末広がりなヴァリエーションとともに続き、韓国内外を問わず熱狂的なファンを生み続けています。
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