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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
韓国では古くから、キムチを漬けて貯蔵する入れものとして「キムチトッ」(
)
とよばれる専用の甕が使われてきました。
特に、晩秋から初冬にかけて一冬分の大量のキムチを漬け込むキムジャン(
)
という作業のあとは、みっちり白菜キムチの詰まった大きなキムチトッがいくつも並ぶのが韓国の風物詩でした。
キムチトッは茶色または黒色をした陶製の甕で、広めの口からふわっと胴がふくらみ、比較的上の位置でふくらみのピークを過ぎるとあとは深い底へ向かってすぼまっていくという、独特な縦長の形をしています。一番ふくらんだ胴のあたりに2つ、浅い取っ手がついているものもあります。
「キムチトッ」の「トッ」(
)
は大甕を意味する韓国語で、ほかに
(チャントッ:醤油や味噌の甕)、
(ムルトッ:水甕)、
(スルトッ:酒甕)、
(サルトッ:米甕)などの言葉があり、
大量の飲食物を保存する容器としてトッが古くから韓国で使われてきたことがわかります。
ところで、甕をあらわす韓国語にもうひとつ、「オンギ」(
:甕器)があります。オンギは用途や大きさに関係なく甕全般を指すことばで、
釉薬を塗って仕上げた「オジグルッ」(
)
と、釉薬を塗っていない素焼きのチルグルッ(
)
に大別されます。
こうした陶製の大甕は、朝鮮半島では古くから屋外で使われてきました。キムチの入ったキムチトッを冬場、土中深く埋めておくとキムチの発酵・熟成に最適なマイナス2〜3℃が保たれ、最良の天然冷蔵庫であったと言われます。また陶器は金属やプラスチックとちがって腐蝕の心配がないことや、多孔質で通気性があることも、キムチの保存に恰好の条件となりました。
そしてこのキムチトッは、蓋が上から本体にかぶさっているところに大きな特徴があります。中には、かなり高さのある大ぶりの蓋が、上から深々と本体を覆っているものもあります。この特徴的な蓋のおかげで、屋外での雨や雪、ほこりなどから中身が守られ、良好な状態で保存されたであろうことは想像に難くありません。
しかし、近年に入り韓国社会の近代化と核家族化、住宅事情の変化の中でキムジャン自体が激減し、土中に埋まった大きなキムチトッを目にすることもほとんどなくなりました。それでも、少量のキムチを冷蔵庫で保存するのに、ステンレス製やプラスチック製の便利な容器が多用される一方で、重たい陶製の容器もまた見直されていることは、陶器の優れた特性を物語るものといえましょう。
最後に甕関連でもうひとつ。トッやオンギのような屋外で使う大甕に対し、そこから小分けにした中身を入れて室内で使う小型の壺に、「ハンアリ」(
)
や「タンジ」(
)
があります。
これにはキムチや塩辛などの保存食、味噌、塩、薬味、蜂蜜、酒などを入れ、そこからさらに調味料入れへ小分けにしたり、
小さな器に取り分けて食卓へ出したりします。
このように、甕や壺をあらわす韓国語は多く存在しますが、日本語の「甕」「壺」と同じく、微妙なニュアンスのちがいはあっても大きさや形状、用途からみた明確な線引きは難しいようです。
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