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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
韓国の食の現場で多用されている器具のひとつに、はさみがあります。いわゆるキッチンばさみです。
キッチンばさみのことを、
韓国語では「チュバン カウィ」(
:厨房ばさみ)、「シッタギョン カウィ」(
:食卓用はさみ)、
「シッカウィ」(
:食ばさみ)、あるいは単にカウィ(
:はさみ)と言ったりします。
日本では、はさみが調理器具という意識が一般に薄く、たいていは昆布や海苔などの乾物を切るか、蟹の殻を切り開く程度の使い道にとどまっているようですが、韓国では材料の下処理から食卓で料理を食べる場面に至るまで、キッチンばさみが実にいろいろなところで登場し、愛用されています。
その中でも、食べる人がキッチンばさみを目にする光景として、たとえば次のような場面があります。
<冷麺>
冷麺専門店などで、きれいに盛りつけられた冷麺が客席に運ばれると、お客さんの目の前で店員が冷麺鉢にはさみを入れ、豪快に麺を切ってくれることがあります。最初から麺を短く切らないのは、冷麺の麺は長いままの方が扱いやすくきれいに盛りつけができ、一方で麺のコシが強く硬いため、食べるときには短い方が食べやすい、という背景があります。
<飲食店のキムチ>
飲食店で副菜として白菜キムチやカットゥギ(大根の角切りキムチ)が出てくるとき、大きいままであることが多く、備えつけのはさみでお客さんみずから好きな大きさに切って食べます。
<焼肉>
カルビ焼き、サムギョプサル(
:豚バラ肉の塩焼き)、テジカルビ(
:豚焼肉)などの焼肉屋さんでは、肉が大きいサイズで出てくることが多く、
大きい肉から焼き始めて、
八分どおり焼きあがったあたりではさみとトングを使って一口大に切り、
好きな焼き加減のところで食べるというスタイルが見られます。
お客さんがタイミングよく肉を焼いたり切ったりできないでいると、
店員がさっとやってくれることも多々あります。
<海鮮料理>
ヘムルタン(
:海鮮鍋)やアグチム(
:アンコウの煮もの) 、ナッチチョンゴル(
:てながだこの鍋)、
チュクミクイ(
:いいだこの炒めもの)など海鮮料理を出す飲食店では、
魚介類が大きいままで入っていることが多く、できあがった鍋や器にはさみとトングを入れ、
好きな大きさに切って食べます。 ケジャン(
:わたり蟹のしょうゆ漬け)など蟹専門店でも、
はさみはたいてい客席に備えつけられています。
<屋台>
屋台の調理でも、さつまあげや野菜、てんぷらなどを切るのにはさみとトングが愛用されています。狭く、水も十分でない屋台で、まな板を使わずに切ることのできるはさみは重宝されているようです。
このほかにも、焼きあがったチヂミやピザ、ソースのぬられたトンカツ、殻をむいたゆで卵に至るまで、薄いものも厚いものも、硬いものも柔らかいものも、はさみで素早く切られていく光景が巷で見られます。
キッチンばさみの形態も、刃の長さやカーブの具合、取っ手の握り具合などいろいろあり、用途によって使い分けます。日本のキッチンばさみに比べて、大きくて重くしっかりしたタイプが多いようです。
調理過程ならまだしも、できあがった食べ物を、食べる人の目の前ではさみで切るという所作は、外国人の目には斬新あるいは多少違和感のある光景と映るかもしれませんが、このギャップこそが異文化の醍醐味といえましょう。
キッチンばさみなら、硬いものも手を滑らせることなく安全に切れ、熱いものも冷たいものも触らずに切れ、まな板がなくても宙で切ったり、器の中で直に切ったりできます。韓国の食においては、キッチンばさみは優れた調理器具、あるいはカトラリーの範疇に入っているわけです。
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