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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
韓国料理店でしばしば使われている石鍋。
石鍋は韓国語で「トルソッ」(
) といいます。トル(
) は石、ソッ(
) は釜を意味します。
あるいは石鍋に使われる角閃石[かくせんせき]を韓国語で「コプトル(
) ということから、
石鍋を「コプトル トゥッペギ」(トゥッペギとは銘々用の素朴な鍋)と呼ぶこともあります。
韓国でしばしば耳にする「コプトル」。日本語では上述のとおり角閃石、英語ではamphiboleと訳されますが、この英語に含まれる「不安定な」「両義的な」「曖昧な」という意味さながらに、その実体としては非常に広範な鉱石グループをなしており、見た目、組成成分とも多岐にわたっています。
黒を基調に灰色・銀色が入り交じり、独特の光沢を放つ韓国産コプトルは、鉛やカドミウムなどの有害物質を含まず、耐熱性、蓄熱性、遠赤外線の放射に優れ、世界的にも優れた材質として認められるようになりました。
朝鮮半島において、コプトル原石は中部〜南部にかけて点在的に分布し、特に小白[ソベッ]山脈の南側、全羅北道の長水[チャンス]〜咸陽[ハミャン]にかけて続く海抜700m以上の山地は、キメが細かく光沢のよい最高級のコプトルが産出する地として知られています。
そして、韓国ではこのようなコプトルの優れた性質と見た目のよさを生かして、さまざまな調理器具、食器、健康グッズが作られています。また、コプトルは温度の急変に弱く、急な加熱や冷却によりひびが入って割れの原因となりますが、近年は石の縁にステンレス板を巻きつけることにより、ひび割れを防ぐような製品が出回るようになりました。
<さまざまなコプトル製品>
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(パプソッ):炊飯用の石鍋。蓋つき。釜飯のように直火で炊ける。炊飯のみならず、多目的に使えるオーソドックスな形。
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(チョンゴルネンビ):鍋もの用の石鍋。家族で鍋ものを楽しめる、口の広い大きめの鍋。
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(チャッチャン):石製の飲茶セット。丸みを帯びた湯飲み茶碗と蓋、茶托がセットになっている。茶碗は電子レンジで温めることができ、熱いお茶を最後まで熱く飲むことができる。
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(プルパン):焼きもの用の岩石プレート。取っ手のついたフライパン状の平鍋から、家庭用の石板、店舗用の大型岩盤など、さまざまなタイプがある。テーブルごとに設置された無縁ロースターに石板をはめこみ下からガスで熱する焼肉店や、つくりつけの岩盤でステーキやシーフードを焼く「鉄板焼き」ならぬ「岩盤焼き」専門店など、プレートの使用に工夫が凝らされている。
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(チョルグ):石臼。比較的小型で深みのある形をしており、すりこぎ状の棒で薬味を叩きつぶしたり、餅菓子を搗いたりする。
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(メットル):挽き臼。浸水させた穀物などを入れてぐるぐる回転させ、すりつぶす。
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(ネンビパッチム):鍋敷き。円形の石プレートで、直火または電子レンジで加熱しておくと、石の蓄熱性により鍋の保温に役立つ。
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(チムジルキ):温熱治療器。取っ手のついた丸いスタンプ状の器具で、取っ手を持って体の温めたい場所にじんわりと押し当てて使う。電子レンジで温めると長時間保温力がある。
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(チアッパン):指圧板。小さな突起が縦横にたくさん並んだ岩盤。上に乗って自分の体重で足つぼを刺激するタイプや、寝転んで背中などを刺激するタイプがある。
これらのコプトル製品の中でも、国内外を問わずもっとも普及したのが石鍋といえます。石鍋はボウルのような深みのある丸形をしており、さまざまな大きさがあります。
石焼ピビンパなど、
具をのせたご飯料理には、直径18〜19cmくらいの石鍋を使います。料理に対して石鍋がやや大きすぎるように見えるかもしれませんが、
食べる前に全体をスッカラッ(
:スプーン)でよく混ぜ合わせるため、
器に少し余裕があったほうが混ぜやすいのです。
また近年、直径15〜16cmの小型石鍋で、
日本の釜飯のように1人前ずつご飯を炊いて提供する
「トルソッパプ」(
) が人気を呼んでいます。
トルソッ
パプはたいてい、白米にもち米、黒米、豆類
(黒豆、大豆、金時豆、小豆など)、
銀杏、栗、なつめなどを混ぜて炊き上げられており、
別名「ヨンヤンパプ」(
:栄養飯)とも呼ばれます。
飲食店の場合は提供時間を短縮するために、豆類はあらかじめ下茹でし、米類は浸水しておき、これらを1人分ずつ石鍋に入れ分けておきます。注文が入ると分量の水を注ぎ、蓋をして一気に炊き上げ、蒸らし時間もそこそこに食卓へ運ばれていきます。
炊きたてのトルソッパプは、オゴッパプ(
:五穀飯)のような美味しそうな見た目と、石鍋に接するご飯がうっすらと焦げた香ばしい匂いとで、
素朴ながらも贅沢感あふれる主食となります。トルソッパプは、
ご飯そのものを存分に味わうコンセプトで、韓国の伝統的な定食屋さんや、少しグレードの高いサムパプ(
:ご飯に薬味味噌やおかずをのせサンチュなどで包んで食べる料理)専門店で、メニューに取り入れられています。
トルソッパプにはたいてい空の茶碗が添えられているので、
ご飯は茶碗によそっていただきます。韓国のトルソッパプは、
日本の一般的なご飯の量より多めであることがほとんどです。そして、ご飯をよそい終わった石鍋には、
自分で水またはお茶を注ぎ入れ、蓋をして置いておきます。朝鮮半島では古くから、
ご飯をよそったあとのお釜に水を入れて置いておき、おこげの匂いが移った香ばしいお湯を「スンニュン」(
) といって、
食後の飲み物として嗜んできました。
現代のトルソッパプブームにより、伝統的なスンニュンをまったく同じ方法で楽しめるのは、興味深いことといえましょう。
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