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韓国の食文化について、伝統から現代の習慣・行事にいたるまで、1テーマずつ読み解いていきます。
「スッカラッ」という言葉を、最近日本でも耳にするようになりました。「匙 [さじ]」「スプーン」という意味の韓国語です。
李煕昇[イヒスン]著『国語大辞典』(初版1961)で「スッカラッ」の項を見てみると、「ご飯や汁をすくって食べる器具。銀、白銅、真鍮、ステンレスなどで作られる」とあります。『国語大辞典』ではこのような最低限の記述に留まっていますが、このコーナーではもう一歩踏み込んで、韓国食文化におけるスッカラッの位置やその魅力に触れていきましょう。
■スッカラッとチョッカラッ■
韓国語で、匙はスッカラッ(
)
、箸はチョッカラッ (
) といいます。「スッ」(
)
は、「ひと匙」「ふた匙」というときの数詞「スル」(
) が音韻変化したものと言われています。また「チョッ」(
) は「箸」の韓国語読み「チョ」
(
) に、二つの言葉が結合するときに挿入される字母
が加わったものです。そして双方に共通する「カラッ」(
) は、
細長いものや切れ端を意味する韓国語です。
■スッカラッを多用する韓国の食事■
さて、韓国の食事スタイルをみると、
伝統的な食卓ではスッカラッと箸がワンセットで使われ、両方合わせてスジョ(
) といいます。
食卓にはスッカラッを左、箸を右にして縦置きにするのが正式なスタイルですが、
スッカラッを手前、箸を奥にして横向きに置くこともあります。そしてどちらの場合も、
食べる人に近い側にスッカラッが置かれ、箸よりも多用されるのが特徴です。
たとえば、スッカラッはご飯やスープはもちろん、汁の多いおかず(水キムチや煮魚、煮物など)を食べるときにも使われます。食事のときに食器を手で持ち上げる日本とちがい、韓国の食作法では飲み物の盃やグラス以外、食器を手で持ち上げてはいけないため、汁気のあるものはスッカラッですくって食べるわけです。一方、箸は汁気のないおかずをつまんだり、麺類を食べるときに使います。そしてスッカラッや箸を持たない方の手は、膝の上や食卓に置いたり、食器に軽く添えるようにします。
また、スッカラッと箸がワンセットといっても、洋食のように左右の手で両方同時に持つことはありません。スッカラッを持つときは箸を食卓の上に置き、箸を持つときはスッカラッをご飯の上または食器にかけておきます。そして最後に、スッカラッが箸と並んで食卓に置かれたら、ご馳走さまということになります。
ここで、箸中心に育った日本人にとって意外に難しいのが、
スッカラッの使い方です。韓国のスッカラッは西洋のスプーンに比べてくぼみが浅く、
柄が細く長く作られています。その浅い先の部分をヘラのようにうまく使って煮魚の身をむしったり、
スープの具と汁をほどよいバランスですくいとって口へ運ぶのには、
柄の持ち方や指の動かし方に少々コツがいります。また、ピビンパプ(
) を食べるとき、
自分のスッカラッでご飯と具をよく混ぜてから食べるものですが、手早く全体を混ぜるのには思いのほか力がいり、
慣れないうちは親指の付け根が凝ってしまうほどです。
そしてもう一つ、スッカラッの用途として見逃せないのが、調理です。韓国では調理の際、調味料を計り入れたり、材料を炒めたり、かき混ぜたりするのに、しばしばスッカラッが使われます。柄が長いため手が熱くならず、先のくぼみが浅いため材料がくっつくこともなく、具のさばきもスムーズ、そして味見をするにもちょうどよい大きさ、と大変便利な調理器具としてスッカラッは重宝がられています。
■スッカラッの歴史■
現在の韓国では、先が丸く平たいステンレス製のスッカラッが一般的ですが、時代をさかのぼると、中国で使われていた匙が朝鮮半島に伝来し時代とともに独自に変化してきたことがわかります。
朝鮮半島の中部、公州[コンジュ]の宋山里[ソンサンニ]古墳群にある百済第25代王・武寧王[ムニョンワン](462〜523年)の陵墓からは、青銅製のスッカラッと箸が発見されました。
また、朝鮮半島最北東で東海に面した羅先[ラソン]の屈浦里[クルポリ] 西浦項[ソポハン]遺跡からは、旧石器時代〜青銅器時代にかけての遺物が多数発掘され、その中に獣骨で作られたスッカラッが発見されています。
また、それ以前には竹や木で作られたスッカラッが使われていたと言われています。
このように朝鮮半島のスッカラッは、竹・木→獣骨→青銅→銀→真鍮→ステンレスと材料を変えて現在に至っています。中でも銀はヒ素などの毒に触れると変色することから、李氏朝鮮王朝時代から宮中や両班[ヤンバン](上級の支配階級)の家で銀製のスッカラッや食器が使われてきました。そして高価な銀に代わって、銅と亜鉛の合金である真鍮(黄銅)が使われるようになりましたが、真鍮は錆びやすいため、錆びにくく安価なステンレス製が現在では一般的です。
また形も、古いものでは先のくぼみが笹のように細長く、なだらかに柄へ続いている形でしたが、李氏朝鮮時代中期ごろから次第にくぼみが丸く大きくなり、柄は細長くまっすぐ伸びて、現在のような形になりました。
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