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2010年は、韓国の「食」に関する ことわざ をご紹介いたします。
ことわざから、日本との文化の違いを見てとることができます。
今月のことわざは「醤[ひしお]の味が変わると家門が滅ぶ」です。
まずここでキーワードとなるのが、冒頭の
(醤:チャン)という韓国語です。「チャン」とはカンジャン(醤油)、テンジャン
(味噌)、コチュジャン(とうがらし味噌)などの総称、すなわち「大豆や穀物に塩と麹を加えて発酵させた調味料類」のことです。
「チャン」に最も近い日本語をさがしていくと、
「醤[ひしお]」という現在ではあまり使われないことばに出会います。「醤[ひしお]」とは狭義にはもろみ味噌をさしますが、
広義には食品を食塩と麹で発酵させた調味料や食品のことで、
大豆や穀物を発酵させた穀醤[こくびしお](醤油、味噌など)以外に、
魚を発酵させた魚醤[うおびしお](または魚醤[ぎょしょう])、肉を発酵させた肉醤[にくびしお]など、
主原料が広範囲にわたるものの、まさに「チャン」であることがわかります。
さて、そのチャンの筆頭に挙げられるカンジャン(醤油)とテンジャン(味噌)ですが、これらはもともと区別がなく、ひとつのものでした。チャンを仕込むとき、煮た大豆に「メジュ」と呼ばれる豆麹と塩水を加えて発酵させる過程で沈殿物と上澄みができますが、その上澄みをカンジャン、そしてカンジャンを汲み出した後、底に残った沈殿物をテンジャンと呼ぶようになったわけです。ちなみに、カンジャンの「カン」は塩味を、テンジャンの「テン」は半流動体の「硬さ」を意味します。
一方コチュジャンは、米やもち米、麦を主材料とし、粉にひいて糊状に炊き、塩や粉とうがらし、豆麹や麦芽を加えて発酵させて作ります。
「チャン」としてはこの三つが主なものですが、他にも柔らかめに煮た大豆を納豆菌で発酵させ薬味を加えた
「チョングッチャン」(
)、立春ごろ薄塩に仕込んで日が浅いうちに食べる
「タムブッチャン」(
)、粉砕した豆麹を加えて短期間で熟成させる「マッチャン」
(
)など、季節や用途別に特色あるチャンがいくつかあります。
「チャン」はどれも、発酵過程で大豆のたんぱく質が溶解してアミノ酸となり、独特のうま味と香りを醸し出すため、韓国料理の味の基本を作る重要な調味料と位置づけられます。
もともと朝鮮半島では、チャンは家ごとに仕込むものでした。
屋敷の一角に「チャントッテ」(
)
と呼ばれる醤甕置き場があり、そこには蓋つきの甕がいくつも並んでいました。どこの家も自家製のチャンで料理を作るのが当たり前で、
現在のような工場生産された商品が使われるようになったのは、ごく最近のことです。
自家製のチャンが作られていたころは、家を切り盛りする主婦にとって、チャンの管理は非常に重要な仕事とされていました。ことわざにある「チャンの味が変わる」とは、チャンの管理がおろそかになったことを意味し、それは家門の滅亡につながる一大事とされました。
朝鮮王朝時代の宮中を舞台にした韓国ドラマ「チャングムの誓い」でも、宮中のチャンの味が劣化して一大騒動になる場面がありますが、そこでも「チャンの味が変わると国に異変が起こる」という台詞が出てきます。
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